その昔、誰でも自由に飲める湧き水があった。だが、人々の感謝の思いは次第にエスカレートし、やがて「分断」の象徴に――。そんなカナダの寓話(ぐうわ)を紹介し、消しゴム版画で彩られた絵本「いのちの水」が静かな共感を広げ、版を重ねている。牧師の中村吉基さん(50)が翻訳した。 原作者は1年半前に87歳で他界したカナダ人神学者。水を守ろうとした人々が、泉を壁で囲んだことで争いを招き、勝者はより頑丈な壁を築いた結果、やがて泉の存在さえ疑われるようになった、という話だ。 中村さんは2004年、ある新聞のコラムで、この寓話を知った。やはり牧師で、4月に55歳で病気のため亡くなった関西学院大准教授の榎本てる子さんが書いたものだった。コラムでは、要約に加え、知り合いの性同一性障害の人が不平等な扱いに苦しんできたことにも思いを馳(は)せていた。榎本さんはカナダに留学中、「同性愛は罪だから裁かれるべきだ」「エイズ