7.作り手たちへの恋文 8.映画と社会 9.50年越しの復讐 7. 作り手たちへの恋文 蓮實:映画評論家としての私が具体的にどんなことをやってきたのか、それをあまり深く考えたことはなかったのですが、先日刊行された『映画の呼吸──澤井信一郎の映画作法』を読んでいて気づいたことがあります。要するに、私は、批評家として、この映画はこのように見るべきだとはどこでもいっていなかった。いわゆる「映画の見方」を語ったことはなかったのです。それに気づいたのは、インタヴィュアーの鈴木一誌さんが、私の書いた『野菊の墓』(1981)のごく短いレヴューを長々と引用しておられるのを読んだときのことです。引用された自分の文章を改めて読みながら、確かにこれは観客を無視した映画監督への「恋文」のようなものだと思いました。それがときによって「果たし状」のようなものとして機能する場合もあったのでしょうが、まだヴィデオもDVD