京都の大学を卒業し、20年以上引きこもった経験を持つ女性(46)がこの春、初めて人と向き合う仕事を始めた。新聞の集金に購読者宅を回る。決して考えられなかった「人に話しかける」仕事。緊張で手が震え、おつりを落としてしまうこともあるが、少しずつ手応えをつかんでいる。 「こんにちは」「今日は良い天気ですね」。お客さんの家に向かう途中、女性は自転車をこぎながら、ずっと「一人でぶつぶつと」発声練習をする。少しでも自然にお客さんと会話が始められるようにするためだ。自分の緊張を和らげる工夫でもある。 家に着いてもすぐにインターホンは押さない。電卓を取り出して実際にキーをたたき、おつりを入れたケースの小銭の位置を確認する。苦手なおつりの受け渡しのシミュレーションだ。「どうしてもお客さんの前で計算すると手が固まってしまうから」。準備体操のようにグー、パーを繰り返し作って手をほぐした後、お客さんと向き合う。