「トランプ王国」を行く:2 @オハイオ州ヤングスタウン バーのドアを開けると、いつものように室内の隅のポップコーン製造機から甘いにおいが漂ってきた。 土曜日の午後1時。カウンターを10人ほどの客が囲んで、アメリカンフットボールの試合を観戦していた。 オハイオ州ヤングスタウン。鉄鋼業や製造業などの主要産業がすっかり廃れ、ラストベルト(さび付いた工業地帯)と呼ばれるエリアだ。 バーの近くをマホニング川が流れる。かつて川沿いには製鉄所が立ち並び、通りは出勤する労働者で混雑し、警察官が3交代制で交通整理に当たるほどにぎわっていた。1950年代、この街の鉄の生産量は同規模の街では世界最大で、マイホームの保有率も全米屈指。豊かな労働者が暮らす街の代名詞のような存在だった。 しかし、そんな面影はもうない。 工場や民家の廃虚が目立ち、取材していると「この街は危険だから、十分に気をつけて。カメラはカバンにし