○八〇年代反核運動の盛り上がり では、三・一一以前、彼の考えはどのようなものだったのか。 反原発運動を反核運動とセットにして厳しく批判するようになったのは、一九八〇年代はじめ、文学者による反核署名運動が起きてからだった。始まりは反核運動への批判だった。 一九八一年、中野孝次、小田切秀雄、西田勝、小田実らが発起人となって「文学者の反核声明」が呼びかけられた。 「署名についてのお願い」は次のような文から始まる。「さて今春、アメリカでレーガン政権が発足して以来、軍備増強論がにわかに高まり、限定核戦略が唱えられ、中性子爆弾の製造が決定されて、核戦争の脅威が人類の生存にとっていっそう切実に感じられるようになってきました」。アメリカの新しい戦略核兵器がヨーロッパに配備されれば、核戦争への歯止めが失われる危機感から、幅広い、反核、平和の運動がヨーロッパで広がっているとし、「世界最初で唯一の悲惨な被曝体験