かつて、非科学的な遺伝学説が日本の生物学界を席捲し、科学は機能不全に陥った。本書は日本の生物学史の暗黒期の記録であり、科学と政治の緊張関係や捏造事件について考える時、必ず振り返られるべき書である。 ソ連の生物学者ルィセンコは、1930年代に「春化処理」によって農作物を増産できると主張した。この理論は実験による検証を経ないままスターリン政権に採用され、理論に批判的な生物学者への弾圧を招き、のちに農業生産に大損害をもたらした。 日本でも同様の混乱が起きたことは語られなくなって久しい。本書は、日本でルィセンコ理論が台頭していった過程を、当時の科学者たちの問題意識や議論を精緻に追うことで描きだす。日本でこの理論が紹介された当初は、新学説を科学的に検証しようという態度が支持派反対派双方に見られたという。しかし議論は次第に思想論争へと変質していく。ルィセンコ理論は戦後の農業改革運動が失敗するまで暴走し
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