米国のトランプ次期大統領誕生で巻き起こった“トランプ旋風”は、金融政策に行き詰まった日本銀行にとって“神風”となったようだ。トランプ次期大統領の財政拡大政策に対する期待から米金利が上昇していることで、日米金利差の拡大により為替相場はドル高・円安が進んでいる。日銀が金融緩和を強化せずとも“棚から牡丹餅”的な円安が実現している。その上、日銀がトランプ旋風を追い風に、従来の金融政策を変更する可能性すら浮上している。
経済史の重要な分岐点は、ごくたまにしかやってこない。優れた政治家が意を決して取り組めば、一国の経済が進む航路を若干変えることはできるかもしれないが、大きく変えられることは非常に少ない。ましてや、全く新しい方向に進ませることなど、まず無理だ。 新時代の到来を示唆する断絶の瞬間は、半世紀に1度ぐらいしか訪れない。 思えば、フランクリン・D・ルーズベルト大統領が米国経済を不況から引っ張り上げたのは1930年代のことだ。 英国のマーガレット・サッチャー首相と米国のロナルド・レーガン大統領の下でインフレスパイラルが制御されたのはその50年後のことだった。 安倍首相が手にした大きなチャンス 日本の安倍晋三首相は、このえり抜きの政治家のリストに名を連ねるチャンスを手にしている。 安倍氏が政権を握った時、市場は文字通り大喜びした。日本がデフレによる停滞から脱出するまで、制限を設けずに金融を緩和すると約束し
日本の安倍晋三首相が進める経済改革、アベノミクスの効果は、活発な議論の的になっている。2012年の安倍首相就任以来、まずまずの経済成長とインフレ率の上昇が見られた時期も何度かあったが、いずれも長続きしていない。 2015年の日本の国内総生産(GDP)の伸び率はわずか0.8%で、消費者物価指数は0.6%の上昇(コア指数はさらに低い0.3%)にとどまると予想されている。 アベノミクスの影響で明らかに変化しているのが、円の価値だ。2012年末時点では、円は1ドル=87円で取引されていた。それが6月第1週に、1ドル=125円台まで値下がりした。30カ月で30%以上下落したことになる(次ページの図1参照)。 この円安の原因となっているのが、新たに円を生み出して資産を買い入れる日銀の大規模な量的緩和(QE)プログラムだ。日銀は年間80兆円(6440億ドル)の紙幣を印刷している。 円安に泣く他の輸出国
日本は人口の高齢化としつこいデフレ、労働市場とエネルギー供給における厄介な構造問題に苦しんでいる。財政状況は、畏怖を感じさせるほど悪い。こんな状況にある国は通常、最悪の事態に備えて計画を立て、ただ最善を祈るよう助言される。 ところが日本の内閣府は、今後何年も3~4%の名目成長が続くとの前提に基づき財政予想を立てている。20年以上そのような水準に達していないにもかかわらず、だ。 名目ベースでは、日本は1990年代初頭の金融バブル崩壊以降、全く前進していない。 バラ色の財政予想はしばしば、政府の善意にとって致命的となる。内閣府の予想のために、安倍晋三首相は慢性的な財政赤字を抑制するための増税や歳出削減について、ほとんど準備せずに済むからだ。 他国であれば、そのような楽観主義は、予想を中立な第三者に委ねよという要求を招くだろう。 日本経済を眠りから目覚めさせるために必要な薬 だが、日本は大半の先
安倍晋三首相が掲げる日本経済復興政策、いわゆるアベノミクスの当初の強みは、安倍首相と自らが選んだ日銀総裁、黒田東彦氏との緊密な絆にあった。 それまでの日銀総裁は、日本を悩ませるデフレの泥沼に対して、敗北主義的なスタンスを取ってきた。 だが黒田氏なら、主に前例のない金融緩和を通じて日本を再生するという自らの野望を支持してくれるはずだと、首相は見込んでいた。 安倍氏が首相に就任してから間もない2013年春、日銀はその期待に応え、急進的な量的緩和プログラムを開始した。 財政政策と金融緩和そのものを巡る対立 だが、ここへ来て、両氏の関係は悪化しているようだ。主な対立点となっているのは財政政策だ。これまでの財政規律は極めて緩く、プライマリーバランス(利払い前の基礎的財政収支)の赤字は国内総生産(GDP)比6.6%に達している。 黒田氏は、赤字削減に関する安倍首相の取り組みが十分とは思えないと明言して
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