筆者が初めて新疆を訪れたのは2006年9月。『西遊記』で有名な火焔山のあるトルファンはこの時期、名物である翡翠色の葡萄がたわわに実っていた。葡萄農家の女性たちに交じり、連日40度を超す昼間の熱射を避けて、葡萄棚の下で車座に寝っ転がって互いの膝を枕に目を閉じると、かすかな葡萄の香りが漂ってきた。 今回、来日したオルム・ベカリさんは、そのトルファン出身。ウィグル人とカザフ人を両親に持ち、地方公務員を務める父親もビジネスで大成功した兄も中国語が堪能で、およそテロや過激派とは縁遠い存在だった。 オムルさん自身も語学が堪能で、カザフスタンにある大手の旅行会社で副社長を務め、カザフスタンの国籍も取得する。たびたび中国と行き来し、高い収入と3人の子供にも恵まれて何不自由のない暮らしが2017年3月25日まで続いていた。 それは、5日間の出張予定でウルムチを訪れた時のことだった。無事に仕事を終えたオムルさ