名古屋大学での院生時代に、私は大学付属図書館で書架整理のアルバイトをしていた。返却された本を棚へ戻す作業の合間に、目に付いた古めかしい本を手にとってはパラパラと見ていた。ある時、スターリン/ブハーリン著『十月革命への道』(昭和3年4月、白揚社内著作集刊行会)という本に出会う。私が驚いたのは、×印の伏字が文中に散らばっていたことに対する物珍しさとともに、全てではないが、伏字の右側の行間へ細かく書き込みがなされていたことである。「国家権力」「ボルシエヴイキ党」といった言葉を書き入れたのは誰か分からないが、その本は寄贈されたものではなかったので、おそらくある時代の勉強熱心な学生か、教員ではないだろうか。 同じ頃に、日本の戦前・戦中期に行われた検閲について学ぶ機会があったので、伏字と検閲制度の関連や影響関係を研究のテーマに設定した。手当たり次第に関連する文献を集め、様々な形態の伏字を見ていく中で、