5月1日、水俣病は公式確認から60年を迎えた。熊本県水俣市の田中実子(じつこ)さん(62)は1956年、入院先の病院が「原因不明の病気」として保健所に届け出て、公式確認のきっかけになった患者の一人だ。発症から60年。そのほとんどを居間で過ごし、これからも過ごす。両親は亡くなり、姉夫婦による介護が続く。 3月、自宅を訪ねた。普段は横になっている実子さんだが、この日は居間の座布団1枚ほどの場所にひざ立ちをして、くるくると回っていた。 足を小刻みに動かしながら、一点を中心に回る。数十秒で1回転。何回も何回も。口は真一文字に結んだまま、その目は視界に入る家族らの顔を捉える。そして突然、後ろ向きに倒れこんだ。そばで見守るヘルパーの女性がとっさに下に滑り込み、抱きかかえる。しばらくして起き上がり、再び回り始めた。実子さんは話せない。時折「んー」と小さな声を漏らす。 自宅は水俣湾の小さな入り江にある。原