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ブックマーク / honz.jp (137)

  • 『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』 認知・農業・科学 - HONZ

    わたしたちは孤独だ。人口が70億を超え、世界中に生息域を広げたとしても、現在の地球上にはホモ属に分類される種はサピエンス、つまり現生人類であるわたしたちだけ。ライオンにはジャガーやトラのように同じヒョウ属に分類される仲間がいるのに、サピエンスは系統樹上で一人ぼっちなのだ。 かつて、人類は孤独ではなかった。そもそも「人類」とはホモ属に分類されるすべての動物を指す言葉であり、人類には多くの種が存在していた。東アフリカに人類が誕生して以来、ヨーロッパ及びアジア西部にホモ・ネアンデルターレンシスが、ジャワ島にホモ・ソロエンシスがいたように、あらゆる場所に多くの種が分布していた。ホモ・エレクトスのようにサピエンスよりも遥かに長い期間にわたって生き延びた種もいた。 なぜ人類の中でサピエンスだけが生き残り、文明を築き上げることができたのか。歴史学者である著者は、人類誕生の瞬間から歴史を振り返ることで、こ

    『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』 認知・農業・科学 - HONZ
    notio
    notio 2016/09/12
  • 『医師の感情』医師たちは現場で何を感じているのか - HONZ

    どんなときでも冷静で、感情的になることはけっしてない――医師に対してそうしたイメージを抱いている人は少なくないだろう。だがもちろん、彼らも人の子であり、そうしたイメージそのままであるわけがない。ふだんはどんなに冷静な医師であっても、ときとして強力な感情に圧倒されてしまうことがあるはずだ。それならば、医師は現場で実際にどんな感情を抱いているのか。そして、そうした感情は医療行為にどのような影響を与えているのか。書は、そんな問題に光を当てようとした、アメリカの現役医師によるルポルタージュである。 書はまず「共感」の話から始まる。ここでいう共感とは、「他人の視点でものを見て、感じることのできる能力」、あるいはもっと限定的には、「患者の苦痛を認識し、理解すること」である。よく言われるように、医師は患者に対して「同情」する必要はないかもしれない。しかし、よりよい診断と治療を行おうというのであれば、

    『医師の感情』医師たちは現場で何を感じているのか - HONZ
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    notio 2016/07/25
  • 『道徳感情はなぜ人を誤らせるのか』悲劇への道は、共感の心で敷き詰められている - HONZ

    SNSに功罪はあれど、「共感をベースにした評判社会」という言葉には何か否定できないものがある。他人の喜びや悲しみといった感情に寄り添うことができ、周囲からどのように思われているか可視化される状態であれば、さぞかし理想的な社会になるはずだ。 しかし、実態はどうだろうか。人々のつながりは誹謗中傷や負の感情を運ぶ時の方が勢いが強く、よりスキャンダラスな方向へと向かっているような印象も受ける。ならば、世の中は「共感をベースにした評判社会」とは違う方向へ進んでいるのだろうか? 書はこのような疑問に対して、明快に回答する。むしろ、これは共感をベースにしているからこその動きであると説くのだ。驚くのはそのメカニズムを、1942年と1950年に起きた2つの冤罪事件(浜松事件と二俣事件)、そして1759年に出版されたアダム・スミスの『道徳感情論』という2種類の要素から解き明かしていることだ。 なぜ、SNS

    『道徳感情はなぜ人を誤らせるのか』悲劇への道は、共感の心で敷き詰められている - HONZ
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    notio 2016/06/03
  • お金の何が、世界を"動かして"いるのだろう?──『貨幣の「新」世界史――ハンムラビ法典からビットコインまで』 - HONZ

    お金の何が、世界を”動かして”いるのだろう?──『貨幣の「新」世界史――ハンムラビ法典からビットコインまで』 貨幣の歴史について語ったは数多い。 それだけに「新」といえるほどの新機軸を打ち出せるものかと思っていたのだが、書は貨幣の定義を通常よりも拡張し『そこで私は、お金は価値のシンボルだという定義にたどり着いた。』としてみせることで、より広い視点、それも生物学、宗教、脳科学と一見貨幣とはあまり関係なさそうな分野まで内包し、様々な角度から光を当てた貨幣史を語ることを可能にしてみせた。 貨幣史というよりは、貨幣を通した人類史──といったほうが正確かもしれない。貨幣を使いみちのみで考えると「価値のあるモノやサービスと交換する」ために存在している。が、お金が手に入ると期待をした時に脳にはどんな影響が起こっているのか──と問いかけてみれば脳科学と繋がりうるし、宗教の教えにはお金や富についての言及

    お金の何が、世界を"動かして"いるのだろう?──『貨幣の「新」世界史――ハンムラビ法典からビットコインまで』 - HONZ
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    notio 2016/05/05
  • 伝えることで、世界は変わるのか『君とまた、あの場所へ シリア難民の明日』 - HONZ

    「伝えることで、世界は変わるのか」 社会問題をテーマにしたドキュメンタリー映画の配給を生業にしていると、よくこの問いに直面する。映画は、問題について人に“伝える”ことはできるが、温室効果ガスを減らせるわけでも、戦争を止められるわけでも、貧困家庭を支えられるわけでもなく、直接的な“治療薬”にはならない。 この葛藤は、映画に限らず、写真やでも、同じように“伝えよう”とする人であれば、どこかで向き合うものなのではないだろうか。 書「君とまた、あの場所へ シリア難民の明日」は、写真を通じて、被災地や難民キャンプ等の状況を伝えるフォトジャーナリストが、ヨルダンに暮らすシリア人難民たちを取材し、まとめた一冊だ。 シリアは、「アラブの春」と呼ばれる中東地域での民主化運動の波を受けて内戦状態となり、早5年が経つ。国民の半数以上が、国外・国内難民となっている同国の状況は、ISの台頭や周辺諸国の思惑が絡み

    伝えることで、世界は変わるのか『君とまた、あの場所へ シリア難民の明日』 - HONZ
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    notio 2016/05/02
  • 『闇の女たち 消えゆく日本人街娼の記録』 - HONZ

    やっと終わった。文庫の作業が終わったという意味だけではない。ふだんは見ないようにしていながらも、部屋の片隅にずっとうずくまっていた童子のような存在と向かい合い、やっとうちから出ていってもらうことができたような感覚に今私は浸っている。自分の仕事を褒めるのは抵抗があるが、いい内容だと思う。その満足感、責任を果たせたことの安心感に浸るとともに、童子がいなくなったことの寂寥感もある。 今から十数年前。雑誌の連載で上野の男娼に話を聞いてみようと思った。さして深いことを考えていたわけではなく、ちょっとした思いつきに過ぎなかったのだが、この時の内容がすさまじく面白かった。この面白さは2人の個性に負うところも大きいのだが、彼らは、彼らの存在を越えて私に大きな課題を与えてくれた。 古い雑誌ではよく見ていたノガミ(※上野)の男娼とこの2名がきれいに重なった。その時代から立っていたわけではないのだが、その世代の

    『闇の女たち 消えゆく日本人街娼の記録』 - HONZ
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    notio 2016/05/02
  • 『帝国の参謀 アンドリュー・マーシャルと米国の軍事戦略』 ペンタゴンのヨーダと呼ばれた男 - HONZ

    常に裏舞台で働くことを好み、自己宣伝や世間からの注目を極端に嫌ったアンドリュー・マーシャルの名を知る者は少ない。しかし、「ペンタゴンのヨーダ」と呼ばれ40年以上にわたって政府高官としてアメリカの安全保障に貢献してきたこの男の明晰な頭脳から生み出せされた戦略からは、誰もが無縁ではいられない。マーシャルは、冷戦中のソ連がCIAの推計よりもずっと多くの軍事負担に苦しんでいることを指摘し、精密兵器や広域センサーなどの技術進化がもたらす「軍事における革命」という概念を提案し、何より多くの研究者や高官に多大な知的影響を与えることでアメリカの戦略に変革を起こし続けた。マーシャルがいなければ、世界地図は現在のものとは違ったものになっていたはずだ。 書では、これまで知られることのなかったマーシャルの「知の歴史」が、第二次大戦以降のアメリカの国防戦略の変遷とともに描かれる。マーシャルの業績の多くは未だに機密

    『帝国の参謀 アンドリュー・マーシャルと米国の軍事戦略』 ペンタゴンのヨーダと呼ばれた男 - HONZ
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    notio 2016/05/02
  • 『1493 世界を変えた大陸間の「交換」』 - HONZ

    作者:チャールズ・C. マン 翻訳:布施 由紀子 出版社:紀伊國屋書店 発売日:2016-02-25 先コロンブス期のアメリカ大陸の常識を覆して(遅れた社会⇒ヨーロッパ以上の人口や洗練された大都市を持っていた文明社会)、全世界にセンセーションを巻き起こした『1491』の著者・マンが、再び世に問う問題作である。 前作がビフォーの高度なアメリカ文明を描いていたのに対し、『1493』はアフターの混乱する世界が描かれる。コロンブスのアメリカ到達(1492)によって、貴金属、病原菌、動植物、そして人間が大陸間を行き交い始め、世界は「コロンブス交換」によって「均質新生」の到来を迎えた。書は4部10章にわたってコロンブス交換の凄まじき実相を余すところなく暴露していく。グローバル化はここから格的にはじまったと著者は述べる。 まず、天然痘やインフルエンザなど新大陸では知られていなかった病原菌が爆発的に流

    『1493 世界を変えた大陸間の「交換」』 - HONZ
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    notio 2016/04/04
  • 『ミャオ族の刺繍とデザイン』深い祈りと神話の世界を身に纏う - HONZ

    中国大陸の南西部を中心に定住する少数民族・ミャオ族。かつては稲作の民として知られたが、気象変動や土地争いなどにより今は山の民として暮らしている。 そんなミャオ族には日人のルーツではないかという説があったり、自然を崇拝していたり、納豆をべていたりと、知れば知るほど親近感のわく存在なのだが、刺繍・染め・織といった女性たちの手仕事にも定評があり、そのレベルの高さには驚かされる。

    『ミャオ族の刺繍とデザイン』深い祈りと神話の世界を身に纏う - HONZ
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    notio 2016/04/01
  • 『貨幣の条件 タカラガイの文明史 』 - HONZ

    交易から文明が生まれる。動物は棲息する生態環境の拘束から逃れることはできないが、ヒトだけが異なる生態環境からモノを移転して生態環境を自らの好むように改変したのである。交易を管理するために統一的な暦が編まれ、文字が発達し、交易の場所から都市が生まれた。異なる文化に交易ルールを強制し、違反者を取り締まるために権力が生まれ、その権力を正当化するために特定の宗教やイデオロギーが発達した。 そして交易の方法は、略奪・互酬・貢納・徴収・市場と進化した。書は、この壮大な上田史観をタカラガイを切り口にして、BC5千年を超えるアッシリアから現代までの悠久の時間と、大興安嶺のふもとから西アフリカに至る広大な空間を舞台に縦横に論じたものである。 第一部は史料の渉猟による「時をたどる旅」。中国では夏(二里頭文化)や商(殷)の時代に威信財としてのタカラガイ好みの文化圏が成立し、雲南では17世紀までタカラガイが貝貨

    『貨幣の条件 タカラガイの文明史 』 - HONZ
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    notio 2016/03/28
  • 加速するテクノロジーといかにして付き合っていくべきか──『人間VSテクノロジー:人は先端科学の暴走を止められるのか』 - HONZ

    最初に『人間VSテクノロジー:人は先端科学の暴走を止められるのか』という書名を見た時、うーんこれはどうだろうかと思ってスルーしかけたのだが試しに読んで正解だった。これはテクノロジーが急速に進歩し、議論が追いていかれてしまっている今こそ読むべき一冊である。 書名からスルーしかけたのは「テクノロジーは人間と対立的に語られるべきものではなく、もたらされるリスクと利益の間を常に天秤にかけながら語られるべきものである」という前提をすっ飛ばしているではないかと思ったからだ。たとえば自動車が存在することによって「自動車事故」というリスクは発生するが、それだけでなく高速で移動できる利益もあるからこそ社会でこれほどに受け入れられているのである。敵も味方もなく、必要とされるのはバランスだ。そこを対立的に煽っても仕方がないだろうと思っていたのだが、書名を少し勘違いしていたようだ。 邦題からはちとわかりづらいが、

    加速するテクノロジーといかにして付き合っていくべきか──『人間VSテクノロジー:人は先端科学の暴走を止められるのか』 - HONZ
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    notio 2016/03/25
  • 『ダークマターと恐竜絶滅 新理論で宇宙の謎に迫る』 - HONZ

    著者リサ・ランドール博士は、世界的に著名な理論物理学者で、「ワープした余剰次元」という画期的な理論の提唱者の一人として知られている。日へは、2005年に東京大学と京都大学で開催された国際会議に出席のため来訪、2007年と2014年にも東京大学で開催された講演会のために再訪している。 こののテーマは、ダークマター(暗黒物質)、すなわち宇宙の2割以上を満たす見えない謎の物質と、恐竜絶滅との驚くべき関係である。ランドール博士が2013年に共同研究者と共に提唱した最新理論「ダブルディスク・ダークマター」モデル(二重円盤モデル)が正しければ、約6600万年前に恐竜を絶滅させた彗星衝突は、ダークマターの一部が形成する見えない銀河円盤が引き金となって起こった可能性がある。さらに、今から約3000万年後にも、同じような規模の彗星衝突が起こるかもしれないという。一体どのようにして、このような推論に至った

    『ダークマターと恐竜絶滅 新理論で宇宙の謎に迫る』 - HONZ
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    notio 2016/03/23
  • 『都市の起源 古代の先進地域=西アジアを掘る』 よそ者が都市をつくった - HONZ

    都市は人を惹きつける。整備されたインフラがもたらす快適な生活、次々にもたらされる新たな出会い、世界に解き放たれる前の情報など、都市にはヒト・モノ・カネ・情報の全てが潤沢に存在しているのだから、都市への集中は当然の成り行きとも思える。事実、1950年に30%だった都市化人口率は現在50%にまで増加しおり、国連の予測では2050年には70%近くにまで及ぶという。もちろん、都市にはメリットだけでなく、希薄な人間関係や経済格差などのデメリットも存在するのだが、都市化の流れは強力なものだ。 このように「陰」と「陽」の面を併せ持つ都市は、どのように誕生したのか。書では、世界最古の都市が誕生した約5300年前の西アジアに焦点を当てることでこの問いに答えを出していく。考古学的手法で世界最古の都市を分析することで、その誕生過程を「流れ」として捉えられ、現代を生きる我々が当然のものとして受け入れている「都市

    『都市の起源 古代の先進地域=西アジアを掘る』 よそ者が都市をつくった - HONZ
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    notio 2016/03/22
  • 『バイエルの謎 日本文化になった教則本』文庫解説 by 最相 葉月 - HONZ

    小学生の頃、同じマンションに住むピアノの先生の家に週に一回、通っていた。自分の家にピアノがないのに習うというのは、今考えるとかなり無謀な挑戦だった。練習に使用したのは、赤い表紙のバイエル教則。正直、つまらなかった。赤を終えると黄色になったが、依然としてつまらなかった。同じことの繰り返しで飽き飽きした。 少し楽しくなってきたのは、父親が電気オルガンを買ってくれてから。発表会に向けて課題曲も決まった。テオドール・エステン作の「人形の夢と目覚め」。静かでゆったりとしたメロディーで始まり、途中から軽やかなテンポに変わる。まさに眠りから覚めた人形が突然踊り出すような可愛らしい曲だった。 転居先の町でも引き続きピアノ教室に通った。だが、私のピアノはここで練習したチェルニー教則で終わる。シャープやフラットの数が増えてわけがわからなくなったためだ。いや、もっと決定的な理由がある。ラジオから流れてきたビ

    『バイエルの謎 日本文化になった教則本』文庫解説 by 最相 葉月 - HONZ
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    notio 2016/03/07
  • 『原子力政策研究会100時間の極秘音源 メルトダウンへの道』 - HONZ

    に暮らす人々は、日における「原発の歴史」をほとんど知らなかった。 原発とは何で、いかに導入されて、いかなる社会的な位置づけをなされてきて、いかなる課題と可能性を抱えながらいまに至っているのか。 それは「不勉強のせい」だけではない。そもそも、福島第一原発事故以前、「原発の歴史」を一般向けかつ体系的、あるいは通史的に整理した人文社会科学系の研究・書物がほとんどなかったからだ。吉岡斉ひとし『原子力の社会史』や武田徹『「核」論』、あるいは反原発運動の記録など一部の予言的な学術研究を除き「原発の歴史」は明文化されることがほとんどなかった。あるのは、特筆すべきできごとに立ち会った関係者の残した文書や、頭の中に眠っている断片的な記録・記憶に過ぎなかった。 その記録・記憶を掘り起こし、歴史に変換する作業が、3・11後、一定程度進んだのは間違いないことだ。安全神話の陰で指摘されていた危険性や、不公正な

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    notio 2016/03/07
  • 全世界の本を分析した研究記録──『カルチャロミクス 文化をビッグデータで計測する』 - HONZ

    世界中に存在するの内容を読み取ってデータ化し、さまざまな形で利用できることを意図したグーグル・ブックス・プロジェクトが立ち上げられた時、そんなことができるのか(分量的な意味でも権利的な意味でも)と疑問に思ったものだ。それが今では、著作権侵害などさまざまな課題を残しつつも事業は継続し、検索した時にお世話になることも増えてきた。3000万冊以上のをすでにデジタル化しているようで、その是非はともかくとしてもかなり大規模な計画だ。 書の著者らは、この壮大なデジタル図書館に目をつけた。著者らのグループとグーグルが共同で開発した、Nグラム・ビューワーと名づけられたツールは、単語を入力することでその単語の出現頻度が時代に伴ってどのように推移したかを図で示してくれる。ある単語が、ある時点でどれだけの人の関心を集めているのかを知りたいのであれば、グーグル検索のワードを分析するのとたいして変わらないじゃ

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    notio 2016/02/25
  • 『メソポタミアとインダスのあいだ 知られざる海洋の古代文明』 - HONZ

    僕が歴史を好きになったのは、間違いなく中央公論社の「世界の歴史(旧版、16巻+別巻)」を読んだことがきっかけだった。世界最古の文明、シュメールから始まる悠久の物語に中学生の胸が高鳴ったことをよく覚えている。書は、農産物こそ豊富だったが木材、石材、金属などの必要物資に欠けていたメソポタミアになぜ世界最古の文明が誕生したのか、その秘密を交易ネットワークから解き明かした野心作である。 「四大文明」は「御三家」や「七福神」のようなもので教育者による思いつきに過ぎない、との挑戦的なゴングが鳴る。過去の研究の多くは、古代文明の起源を、灌漑農耕による生産性の飛躍的な向上、余剰の蓄積、労働力の集中と社会的・政治的ヒエラルキーの確立などの面から説明してきたが、何ゆえ文明がこの地に興らざるを得なかったのかという必然性を説明していない、と著者は指摘する。 そして交易を生業とした非農耕文明に目を向ける。メソポタ

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    notio
    notio 2016/02/22
  • 『文化進化論 ダーウィン進化論は文化を説明できるか』 文化も生物のように変異し、競争にさらされ、受け継がれていく - HONZ

    文化進化論 ダーウィン進化論は文化を説明できるか』 文化も生物のように変異し、競争にさらされ、受け継がれていく ダーウィン進化論は、信じられないほど少ない仮定で、驚くほど多くのことを説明してしまう。なにしろ、100万種以上といわれるほど多様で、かつその1つ1つが複雑な機能を備えている生命が、どのように実現されているかを誰もが理解できるように示してみせたのだから、驚異という他ない。またダーウィン進化論は、DNAがどのように遺伝情報を継承しているかというミクロな視点から、種が集団としてどのように発展するかというマクロな世界までを考えるための共通土台を提供することで、あらゆるレベルでの生物への理解を深めるために欠かせない存在となっている。 それでは、進化の果てに生み出されたヒトが作り出す文化について、我々はどれほど理解しているだろう。文化がどのように生まれ、伝達され、発展もしくは衰退するのか、

    『文化進化論 ダーウィン進化論は文化を説明できるか』 文化も生物のように変異し、競争にさらされ、受け継がれていく - HONZ
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    notio 2016/02/12
  • 『犯罪の世間学』なぜ日本では略奪も暴動もおきないのか - HONZ

    90年代末以降、刑事司法の厳罰化が進んでいる。80年代からは量刑はざっと見て倍になり、00年の少年法改正を皮切りに法律改正のラッシュが続いた。10年には時効も廃止された。 犯罪が増加したわけでも、凶悪化したわけでもない。むしろ諸外国と比べても日の犯罪率は低い。東日大震災時に被災者が避難所で整然と行動していたことは海外メディアにも絶賛された。 治安の良さとそれにも関わらず起きている厳罰化の流れ。いずれも「世間」に日人が未だにがんじがらめになっているというのが刑法学者の著者の主張だ。 日には社会が存在せず、伝統的に世間が存在したとの指摘は阿部謹也が提唱した世間論で広く知られる。著者は世間を「日人が集団になった時に発生する力学」と定義しながら、「既読スルー」や「空気を読む」を例に世間論を紹介、特徴を解説する。 「世間」には「共通の時間意識」に基づく「人間平等主義」があるため、日人は能

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    notio 2016/02/10
  • 『ダレス兄弟 米国務長官とCIA長官の秘密の戦争』神に選ばれし国アメリカを体現した男たち - HONZ

    バージニア州にダレス国際空港という名の大空港がある。この空港がジョン・フォスター・ダレス元国務長官の名前に由来していることを、知らない人もいるかもしれない。著者は書冒頭でこの空港を訪れる。この空港のシンボルである、ダレス国務長官の胸像を見るために。しかし、どこを探しても見つからない。幾度も改築を重ねるうちに胸像はどこかへ運びさられたようだ。空港関係者を訪ね、著者はついに胸像を見つける。 ダレスの胸像は、一般人が立ち入る事の出来ない部屋の一角に鎮座していた。冷戦の闘士として共産主義と戦い続けた政治家も、かつての輝きを失い、人々の記憶から消え去ろうしている。政治家の評価とは時代のフィルターを通し変化し続けるものなのだろう。 書は1950年代にアメリカ外交を表と裏から支配した、ジョン・ダレス国務長官とアレン・ダレスCIA長官が、いかに世界の国々に政治的介入を繰り返し、現代社会に続く緒問題を発

    『ダレス兄弟 米国務長官とCIA長官の秘密の戦争』神に選ばれし国アメリカを体現した男たち - HONZ
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    notio 2016/01/09