ようやく専門家が本腰を入れてきた。研究が進展しそうだ。『シベリア抑留』(中公新書)は現代史の闇に鋭く切り込む内容で、そんな期待を抱かせる。著者の富田武・成蹊大名誉教授(71)に話を聞いた。 ■ ■ 副題の「スターリン独裁下、『収容所群島』の実像」が、本書の特徴を表している。シベリア抑留を取り上げた類書は多い。そして対象者は日本人、地域はユーラシア大陸のソ連領内、ことに文字通りシベリアでの分析に傾きがちだった。だが本書はドイツ人捕虜についても詳述している。また南樺太や北朝鮮での抑留を視野に入れた。時間軸も長い。日本人抑留に先立つ、政治犯を扱った矯正労働収容所までさかのぼりソ連の非人道システムを見渡す。 読みどころの一つが、ドイツ人捕虜の分析と日本人との比較だ。「(抑留された)日本人将校の手記をみると、よく『ドイツ人は立派だった』とある。違うのでは、と思っていました」。そのドイツには、捕虜研