一九八二年は、もしかしたら戦後日本文学史におけるひとつの大きな節目だったのかもしれない。 この年の一月、「核戦争の危機を訴える文学者の声名」が発表される。この声名への署名を呼びかけた発起人は大江健三郎、中野好夫を中心に、埴谷雄高、本多秋五、堀田善衛、井伏鱒二、吉行淳之介、安岡章太郎、井上靖ら三十六人だった。こうした「文壇」の動きをよそに、六年前にデビューした村上龍は二月から雑誌「ブルータス」でひさびさの長編『テニスボーイの憂鬱』の連載を開始する。三年前にデビューした村上春樹は八月に三作目となる初の長編『羊をめぐる冒険』を「群像」で発表し、同年十月に単行本として刊行される。 吉本隆明は、この年にデビューしたある新人作家の小説について次のように述べている。 『さようなら、ギャングたち』は現在までのところポップ文学の最高の作品だと思う。村上春樹があり糸井重里があり、村上龍があり、それ以前