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安倍晋三元首相が殺害された事件に、「ついに起きてしまった」と思った。2008年の秋葉原無差別殺傷事件以来、「いつか政治家が標的になる」と危惧してきた。 日本では戦前、政治家や実業家を標的にしたテロ事件が頻発した。テロというと、特定の過激組織や政治思想に導かれた明確な理由でターゲットを攻撃し、国家などに要求をのませたり、社会を恐怖に陥れたりするものとされる。 ところが、戦前のテロの多くは、背景に犯人自身の貧困や孤独などによる生きづらさと、それへの怒りがあった。秋葉原事件など近年の大量殺傷事件の多くも、この背景が共通する点で戦前からの「テロ」の系譜に連なると考えてきた。近年の事件は、「たまたま」要人が標的ではなかったり、政治的な要求がなかったりしただけだ。 個人的な怒りと要人テロ 私が秋葉原事件後に著書で論じた大正時代の右翼テロリスト、朝日平吾は、1921年に安田財閥の祖、安田善次郎を殺害した
安倍晋三元首相が銃撃された事件をどう受け止めるか。識者らに聞いた。 東京工業大の中島岳志教授(政治学)の話 今回の事件のような非合法な暴力の目的は、私たちの社会を恐怖によって萎縮させることであり、許されることではありません。今、私たちが取るべき態度は、動揺せず、昨日と同じ今日を生きることです。毅然(きぜん)とした態度で事件が世の中に与える影響を最小限に抑えることが、テロに勝つことにつながるからです。 現在、与野党ともに選挙運動をストップさせていますが、それはやってはいけないと思います。今回の事件が週末の参院選の結果に大きな影響を与えてしまうことは、テロが社会を動かすのに有効だと認識されることにつながり、テロの連鎖を引き起こすことにもつながりかねません。私たちは動揺せず、選挙と今回の事件を切り分けて参院選の投票にも挑むべきです。
ロシア軍によるウクライナ侵攻から原油高、急激な円安と暮らしに深く関わる問題が次々に起きている。それなのに、7月10日に投開票される参院選はお世辞にも盛り上がっていると言えそうにない。私たちは何から議論すればいいのだろう。焦点を整理しようと、政治学者の中島岳志・東京工業大教授に聞くと、「自民圧勝など状況によっては、憲法改正プロセスが一気に進むのではないか」と指摘した。どういうことか。【山下智恵】 「安倍(晋三)政権の発足以降、自民党は積極的に選挙の争点を提供せず、選挙戦を盛り上げない戦略を取っています。私は2:5:3の法則と呼んでいますが、有権者の2割が野党に、3割が与党に入れる。残り5割が選挙に行かないと与党が3対2で勝つわけです」 自民党の「盛り上げない戦略」に対する野党側はどう闘っているのか。 「野党側は共闘できず、分裂しているうえ、安倍元首相、菅義偉前首相とは異なるソフトなイメージの
岸田文雄首相は、自分がトップリーダーなのにさまざまな人の顔色をうかがい、一貫性がない。この国をどこに持っていきたいのか、就任から8カ月以上たっても分からない。 岸田氏が尊敬するという大平正芳元首相ら自民党宏池会の政治家には、確かに聞く力はあったが、世界はこうあるべきだという哲学があったうえで、多様なものを吸収していた。岸田氏には哲学がなく、翻弄(ほんろう)されているに過ぎない。それは聞く力とは言わない。 支持率が比較的高いのは、安倍晋三元首相、菅義偉前首相の横柄な態度が若干弱まり、財務省中心の安定的な政治にシフトして、落ち着いて見えるからではないか。安倍、菅両氏は人柄が支持されていなかったので、それよりはましということだ。第1次安倍内閣後の福田康夫政権と似ている。 争点は物価高、ウクライナ、ポストコロナ 今回の参院選で問われるのは物価高、ウクライナ、ポストコロナの3点だ。 物価高に対して岸
気鋭の政治学者・中島岳志氏は、元朝日新聞記者・鮫島浩氏が上梓した『朝日新聞政治部』にこんな推薦コメントを寄せている。 「これほどの生きたジャーナリズム論に出会ったのは、はじめてだ。ここにはメディアの未来を考える重要な実体験が描かれている」 中島氏と鮫島氏、両者の希望により実現した緊急対談の内容を、今日から3回にわたって公開する。 第1回は、同書で最も重要な場面として描かれる「吉田調書事件」の裏側について。中島氏は2014年当時、朝日新聞の「紙面審議委員」を務めており、この問題について識者として朝日新聞に意見を求められていた。(この対談の動画を「鮫島タイムス」で特別公開中) 木村伊量社長が「慰安婦問題」に手をつけた理由 中島 すごい本でした。引き込まれて一気に読みました。本を読み終えて、鮫島さんに質問したいこともいくつかあったので、今日は対談できて嬉しいです。 鮫島 こちらこそ、ありがとうご
武田:現代ビジネスは講談社の媒体ですから、避けるべきではないと思いまして。講談社は今回の広告について「政治的な背景や意図はまったくございません」とコメントを発表した。実に奇妙なコメントです。政党と組んだ広告企画には、政治的な背景と意図があります。「違法じゃないのだから、野党もやればいい」との意見もありますが、支配的な権力と潤沢な資金を持っている与党が、こうして女性誌とタッグを組んだ事実は、「ならば他党もやればいいのに」との意見で終わらせられることではない。 加えて、モデルの口から語られたのは「外国の方やお年寄りにもっともっと親切な対応をすべき」「他人の価値観を理解し、尊敬し合えることができたらどんなにいいだろう」といった、自民党が進めている政治とは逆行する内容でした。彼女たちの言葉に党として応答することはせずに、「#自民党2019」を最後にくっつけるだけ。この気持ち悪さを放置し、慣れてしま
G20が終わり、参議院選挙が目前となった。今、自民党の本質とは何か? 安倍首相は何を考えているのか? 政治学者・中島岳志氏は最新作『自民党 価値とリスクのマトリクス』(スタンド・ブックス)で、9人の首相候補政治家の言葉・著作を分析した。今回、ライター・武田砂鉄氏との対談を企画。自民党政治家の言葉から見えてくるものとは――。 (構成:山本ぽてと、写真:杉山和行) 空虚だからこそコスプレセットを着込む 中島:新刊『自民党』では、安倍晋三氏、石破茂氏、菅義偉氏、野田聖子氏、河野太郎氏、岸田文雄氏、加藤勝信氏、小渕優子氏、小泉進次郎氏といった9人の首相候補政治家のインタビューや著作をもとに、彼らの発言を引用しながら、現在の自民党の姿と政治家たちの実像をあぶりだそうと試みています。 武田:『自民党』を読んでまず感じたのは、今、安倍首相がなにを考えているのか、私たちはもう何年も耳にしていないのかもしれ
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自民党総裁選の流れは世論が決める~「小泉総裁」登場劇は再現するか? 国民の関心の高まり、派閥の流動化、選挙期間の長さで、これまでの常識は通用しない 田中秀征 元経企庁長官 福山大学客員教授 自民党総裁選が9月29日の投開票に向かって動き出している。告示は17日だが、公職選挙法の適用は受けないので、事実上の選挙戦はもう始まっている。 今回の総裁選は、①コロナ禍の真っ只中、②衆院選の直前、③現職総裁の突然の立候補辞退――などの条件が重なり、国民の関心はかつてなく高まることが予想される。要するに、従来の総裁選での常識が適用しないということだ。 国民を巻き込み展開した2001年総裁選型か 自民党総裁選の歴史を振り返れば、われわれの記憶に深く刻まれているものが幾つかある。なかでも、①最初の公選で石橋湛山を第2代総裁に選出した1956年、②福田赳夫との“角福戦争”を制して田中角栄が第6代総裁となった1
突然の退陣表明をした菅義偉首相。支持率低迷にあえいでいたとはいえ、「コロナ対策に不満はあるけど、なぜ今?」といぶかる人も多いだろう。そもそも、菅政権とは一体何だったのだろうか。東京工業大教授の中島岳志さん(政治学)が寄稿してくれた。 ◇ ◇ 菅内閣が持ち直す可能性がたった一つあった。それは臨時国会を開き、本気でコロナ対策に取り組むことだった。 8月中旬、保坂展人・世田谷区長をはじめとする東京都内の区市長6人が、与野党の「政治休戦」を求め、臨時国会を開いて新型コロナウイルス対応で協力するよう提言を発表した。これに立憲民主党の枝野幸男代表は呼応し、与野党の党首会談を含めた協力の意思を示した。政局よりもコロナ対策を重視した枝野代表の決断は、菅首相にとっては「救いの手」になる可能性があった。 しかし、首相はこの呼びかけを無視し、党内の権力闘争に奔走した。そして、万策尽きて政権を放り出した。 彼の
国民が乗れる「もう一隻の船」をどう創る いま必要な政権のあり方は~保坂展人・中島岳志対談 深刻な政治全体へのネグレクト。政権運営の質の転換をするために何をするべきか 吉田貴文 論座編集部 秋の総裁選に向けて自民党内の動きが激しさを増してきました。その後にある衆議院の解散・総選挙に向け、コロナ禍の日本は“政治の季節”に突入します。菅義偉政権の支持が下げまらず、衆院選での苦戦が予想される自民党。かたや、支持率が上向かない与党。有権者に有力な選択肢が示されないなか、政治はどこに向かうのか。このほど刊行された『こんな政権なら乗れる』(朝日新書)で対談した保坂展人・世田谷区長と中島岳志・東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授のお2人に、地盤沈下が著しい日本の政治を立て直すにはどうすればいいのか、政権運営の質を転換するために何が必要なのか、徹底的に討論していただきました。(聞き手 論座編集部・吉田貴
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「もはや先進国ではない日本は、『堕(お)ちる道を堕ちきる』ほかない――」。東京オリンピックが閉幕した。数々の不祥事に加えて、東京都の新型コロナウイルス感染者数が期間中に過去最多を記録するなど問題にまみれた大会だった。中島岳志・東京工業大教授が、日本と五輪の本当の姿を射抜き、処方箋を提示した。【聞き手・鈴木英生・オピニオングループ】 日本衰退を可視化した東京五輪 まずは、あまりに問題だらけの大会でも、全力を尽くされたアスリートの方々に、敬意を表したい。そのうえで、今やるべきではない五輪をやってしまったとしか言いようがない。せめて、あと1年延期すべきだった。今大会の反省を踏まえて、五輪のあり方は根底から問い直されねばならない。 1964年の東京大会が戦後復興と高度成長の象徴ならば、今回は日本の衰退を可視化したイベントとして語り継がれるだろう。新型コロナウイルス禍への政府の対応のまずさはもちろん
自民党の新ポスターを披露する丸川珠代広報本部長=東京都千代田区の同党本部で2020年10月13日午前11時半、竹内幹撮影 ある時は元号発表で人気を博した「令和おじさん」。またある時は自身の好きな食べ物から庶民派をアピールする「パンケーキおじさん」。果たしてその正体は「携帯電話料金を4割安く!」など、大衆受けしそうな言葉で巧みに国民の気持ちを操る「値下げおじさん」だった――。以前から菅義偉首相の手法の危うさを指摘してきた東工大教授の中島岳志さん(45)に、首相がもくろむ「その先」を聞いた。 「値下げ」で支持集め 権力強化図る 「菅さんのポピュリスト(大衆迎合主義者)としての最初の成功体験は、東京湾アクアラインの値下げでしょう」。1997年開通の東京湾アクアラインは、当初は普通車の通行料が4000円と高く、交通量が伸び悩んだ。2002年に国土交通政務官に就任した菅氏は、自動料金収受システム(E
「科学者の国会」と呼ばれる日本学術会議が推薦した新会員候補者のうち6人を菅義偉首相が「任命拒否」した。異例の政治介入に対し、各界から「学問の自由を侵す暴挙」との声が上がる。政権側は理由を明らかにしていないが、拒否された候補は過去に政府方針に反対した経緯があり、見せしめ的手法で異論を排除しようという政権側の思惑がにじむ。近著「自民党 価値とリスクのマトリクス」などで菅氏の政治手法を分析している中島岳志・東京工業大教授(日本政治思想)は、「こうした手法はあっという間に国民に向けられると思った方がいい」と警鐘を鳴らす。この問題について、毎日新聞はさまざまな識者にインタビューし、<#排除する政治~学術会議問題を考える>シリーズとして報じていきます。【浦松丈二/統合デジタル取材センター】 忖度による支配のメカニズムを学術界に広げる狙いか ――6人を任命しなかった菅首相の狙いをどう見ますか。 ◆菅さん
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