本連載では、現役の会議通訳者・池内尚郎さんが同時通訳の実践的技法を紹介していきます。ご自身が、日々の実践を通じて気付いたことを、通訳者の方や通訳者をめざす方々に向けて「実践則」としてまとめたコラムです。第1回は「『訳し下ろし』の同時通訳術」です。 「日本語と英語では語順が逆なのに、よくあんなことができますね」 ときおり、現場でそんなお褒めの言葉を頂く。大半は世辞である。それでも素直に嬉しい。私は鼻の穴を膨らませる。膨らませながら、「いやあ、ほんとは逐次通訳の方が難しんですよ」——これは半分が見栄、あと半分は本音だ。 日本語は文中、動詞が最後に来る。英語は動詞を文の前の方に持ってくる。だから、サゲがいまいちの小話のようなシーンが通訳世界では起きる。たとえば、こんな感じだ。 「ボリス・ジョンソン首相は記者会見で、断固たる口調で英国はEUから脱退すべきだと、明言しませんでした」 これを素直に訳す