2月11日に公開される映画『すばらしき世界』は、佐木隆三の小説『身分帳』をもとに、13年の刑期を終えて出所した元殺人犯・三上正夫(役所広司)が、社会でもがきながら懸命に生きる様を描いた問題作だ。この度、原案となった小説『身分帳』が復刊するにあたって、監督を務めた西川美和が作品への思いを綴った――。 初めて佐木作品に触れて 『身分帳』のことは知らなかった。 その題名も知らなければ、言葉の意味も知らない。佐木隆三さんの作品の中に、そういうものがあると知ったのは、新聞紙面に訃報が載った時だった。 「佐木さんというと『復讐するは我にあり』が有名ですし、代表作とされていますが、私としては伊藤整文学賞を受けた『身分帳』が彼の真骨頂だと思っています。犯罪者を見つめる目が温かい。犯罪を犯した人を人間として理解しようとするスタンスが彼の犯罪小説を文学たらしめたと思います」(二〇一五年十一月二日/読売新聞)と