遠山隆淑著 A5判/292頁/本体4500円+税 「改革の時代」と言われるヴィクトリア朝時代の英国で、「ビジネス・ジェントルマン」こそが「良き統治」をもたらす政治的リーダーであるとしたウォルター・バジョットの思想を、旧来のウィッグの思想やJ・S・ミルらラディカルのそれとの異同を明らかにしつつ探求。 ISBN978-4-86258-062-7 (2011年7月25日刊行)
西洋文明を理解するうえで、キリスト教は欠くことのできない要素として挙げられる。現在のキリスト教は多くの教派・宗派に分かれているが、古代から中世にかけての西ヨーロッパ社会においてはキリスト教といえばローマ・カトリックのことであった。中世を中心として古代からルネサンスにいたるまでの時代の西欧キリスト教の指導者たる教皇と教皇権の歴史を描いたのが、本書『中世教皇史』である。 著者のG・バラクロウ (バラクラフとも) は20世紀イギリスの歴史家で、ケンブリッジやオックスフォード、ブランダイスなど英米の各大学で教鞭を執った。中世の教皇庁制度史から研究をスタートさせたのち、ドイツなどをはじめとする中世ヨーロッパの歴史全般へと研究の対象を広げ、キャリアの後半には比較史・世界史・現代史へと考察対象の幅を拡げた。過去と現在を見渡す文明史家としての視野の広さ、そして造詣の深さはいくつもの著作として形を取り、それ
記事:じんぶん堂企画室 柄谷行人さん 書籍情報はこちら 「これ以上ないところまで書いた」 柄谷さんは、四半世紀にわたって、〈交換〉から社会の歴史を見る仕事に取り組んできた。今作は、その〈交換様式〉がもたらす〈観念的な力〉に着目した到達点といえる一冊だ。 「私は、これ以上ないというところまで書きました。だから、今後どうすればいいんですか、なんてことを聞かないでもらいたい(笑)」 その仕事に取りかかったきっかけの一つは1991年のソビエト連邦崩壊だった。 「やはり、すごく大きな事件だったんですね。このとき、〈歴史の終焉〉ということが大々的に言われましたが、私は反対でした。なぜなら、何も終わっていなかったからです」 当時、米国の政治学者フランシス・フクヤマが、イデオロギーの対立は自由・民主主義の勝利に終わったという仮説を示して注目を集めた。根本的な革命はもう起こらないとも言われた。しかし、柄谷さ
近現代史への関心は高く書物も多いが、首を傾げるものも少なくない。相当ひどいものが横行していると言っても過言ではない有様である。この連載はこうした状況を打破するために始められた、近現代史の正確な理解を目指す読者のためのコラムである。 昭和を代表する陸軍の参謀7人を取り扱った著作である。いずれも興味深い内容であるが、評者として最も印象深かったのは第5章の池田純久であった。池田は昭和前期陸軍派閥抗争の1つの焦点である統制派と皇道派の対立において、統制派を代表する人物であったにもかかわらず研究がほとんどないからである。 この統制派と皇道派の対立において特異なことは、皇道派の存在は明白だが、統制派の存在は当事者が否定することが多いことである。このため誤って存在しないとする研究者すらかつては存在した。しかし、池田は自ら自分が中心であったとして存在を認め、研究を大きく前進させたのであった。 池田は189
犠牲者意識ナショナリズム 国境を超える「記憶」の戦争 著者:イム・ジヒョン 出版社:東洋経済新報社 ジャンル:社会思想・政治思想 「犠牲者意識ナショナリズム」 [著]林志弦 「犠牲者意識ナショナリズム」とは著者の造語で、自分の国の一体性や正当性を主張するために、自分たちの英雄的な行動ではなく、他国から受けた被害を過剰に強調し、自分たちの加害を過剰に小さく見せようとする態度のことをいう。 慰安婦問題が欧州の女性に対する犯罪の記憶を呼び起こしたり、ホロコーストの記憶とイスラエルによるパレスチナでの暴力の記憶が重ねられたりする記憶のグローバル化を背景に、ポーランド、ドイツ、イスラエル、日本、韓国、旧ユーゴなどの犠牲者意識ナショナリズムを縦横無尽に論じる快著の翻訳を寿(ことほ)ぎたい。 私が初めて著者の報告で犠牲者意識ナショナリズムという言葉を聞いたとき、なんて恐ろしい概念だと驚愕(きょうがく)し
ISBN: 9784571410697 発売⽇: 2022/07/04 サイズ: 22cm/522,40p 「加速する社会」 [著]ハルトムート・ローザ ますます忙しくなっていないか。電子メールやオンライン会議も活用してマルチタスクでこなしているのに、なぜか以前よりも時間が過ぎるのが速く感じられる。ストレスが高まる。 そんな「加速の経験」をうまく拾いあげて語り始める本だ。 ずっと走り続けていないと、いまの立場すら保てないのではないか。そこにはそんな不安が潜む。まるで、「地滑りを起こしている急斜面」に立っているかのようなのだ。社会が変化するスピードはどんどん速くなっており、キャッチアップを少しでも怠れば、たちまち知識や情報は古びて、時代遅れになる。「私たちは同じ場所にとどまるためにできるだけ速く走っている」。「加速する社会」への適応を拒み、電子メールを放置でもしようものなら、代償は高くつく。
名キャスターにして社会学者、その主著。 自民党は長らく、女性を従属的な「わきまえる」存在と見なし、「イエ中心主義」の政治指向を形成してきた。戦後の保守再生の流れの中で、そうした女性認識はいかに形作られ、戦略的に再生産されてきたのか。国会に女性が増えない原因を解き明かす画期的試み。 【参考資料】 第45~47回衆議院総選挙一覧 【「序章」より一部抜粋】 本題を説明する前に、自民党の「女性認識」がどのようなものかを世に広く示すことになった発言に触れざるを得ない。二〇二一年二月三日、東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長が臨時評議会で「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」と発言したことである。発言の要旨は「女性は競争意識が高く、他の女性が発言するとみんな発言する。よって時間がかかる。組織委員会の女性はわきまえているから話も的を射ている」というもので、これのどこが「女性蔑視」なの
2022年6月16日、インターネット・エクスプローラーが終了する!! ノストラダムスはIE終了を予言していたんだよ!! な、なんだってー!? 日経新聞によれば国内では3月時点で約5割の企業がIEを使っているほか、特に公的機関のサイトでも対応が遅れている…。 俺たちはIE専用サイトを開けなくなってしまうのか。「そっ閉じ」以前にサイトが開けないなんて、どうすればいいんだよ、キバヤシ!! 俺にだって分からないことぐらい…ある…。 …ググったら分かった。俺たちはとんでもない考え違いをしていたんだ。Edgeの「IEモード」を使えばいいんだよ!! おい…待てよ…。何言ってんだよ、キバヤシ!! Edgeなのはいけないと思います!! さて、「インターネット・エクスプローラー」は必殺技のようであるが、「ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム」(ウギップ)もまた必殺技のようである。 ウギップという「こ
『万葉集』を典拠とする「令和」改元を機に、奉祝ムードが広がった。自民党政権が『万葉集』を利用して国民をいいようにたぶらかしているのに、マスコミはまともに批判しようとしない。座視できない事態である。40年『万葉集』を研究してきた立場として警鐘を鳴らすべく、大急ぎで取りまとめたのが本書である。 総理大臣の談話がなされた4月1日に一晩で書いて、新聞に投稿した文章がSNS上に流出し、評判を取った。これをいくらか増補して『短歌研究』誌に掲載した文章が第1章。天平二年に大伴旅人が主催した梅花の宴が、前年に左大臣長屋王が冤罪で処刑された事件に抗議する文化的示威行動だったことを指摘するとともに、「令和」の典拠とされた梅花歌并序の本文を精読すると、〈権力者の横暴を許せないし、忘れることもできない〉という、政府関係者にとっては青天の霹靂ともいうべきメッセージが読み解けるとする。 第2章は、かつて東大駒場の「高
1936年2月26日早暁、陸軍青年将校らの一団約1500名が蹶起した。標的のうち岡田啓介首相と牧野伸顕前内大臣は難を逃れたが、斎藤実内大臣、高橋是清蔵相、渡辺錠太郎教育総監が殺害され、鈴木貫太郎侍従長が重傷を負った。 首謀者らは佐郷屋留雄の浜口雄幸狙撃、血盟団事件、五・一五事件を先駆捨身と称揚。襲撃後は独自の国体観による「待ちの姿勢」をとり天皇の嘉納を期待したが4日目に帰順。軍法会議を経て処刑された。 「クーデター未遂」「統制派と皇道派の抗争」「政治腐敗と農村の窮状を見かねての義挙」「真崎甚三郎黒幕説」。事件についてはいくつもの総括があったが、実相は理解されているだろうか。本書は、史料を虚心に読み直すことで事件のありようをとらえる試みである。首謀者らが「皇道派青年将校」だという巷説は正しいのか。真崎黒幕説に便乗することで、皇道派と青年将校をまとめて退治したい幕僚・統制派側の作為ではないか。
権力にゆがむ専門知 専門家はどう統制されてきたのか (朝日選書) 著者:新藤 宗幸 出版社:朝日新聞出版 ジャンル:新書・選書・ブックレット 「権力にゆがむ専門知」 [著]新藤宗幸 2020年の日本学術会議の任命拒否問題や、コロナ禍での専門家のあり方など、政治と専門家との関係を改めて考えさせられることが多い今、思わず手に取った本だ。両者の関係が時代とともに変容してきた様子を、日本の近代化から解き明かしている。 「専門知」は政策を作ったり、特定の分野で判断を下したりするのに必要な深い知識だ。それが集積されるのは学界だけではなく、官僚組織など多岐にわたる。 専門的な知見から助言をする役目だが、ややもすれば政策を正当化するための道具ともなりかねない。 本書によれば、かつて意識的な緊張関係を保っていた専門家と政治の関係が変化したのは1980年代の中曽根政権下だった。新自由主義の流れとともに国会審議
第二次世界大戦中のヨーロッパ。1941年6月22日早暁、東ヨーロッパで史上最大の軍事作戦が始まった。ドイツ軍300万がソ連に侵攻した、いわゆる〈バルバロッサ作戦〉だ。その日からドイツの敗退まで4年、そしてその間にソ連の2000万の命が失われた。 スターリンはなぜ、この急襲にそれほど無防備だったのか。あらゆる情報網を通して十分な情報を得ていながら、なぜすべての忠告を無視したのか。なぜ最後の瞬間まで、ヒトラーに石油、穀物、軍事物資を供給しつづけたのか。理由は、1939年8月23日に2人の独裁者が電撃的に結んだ独ソ不可侵条約にあった。 この〈悪魔の契約〉に賭けた両者の思惑は何だったのか。本書は、BBCのドキュメンタリー制作者2人の手になる迫真のドキュメントであり、膨大な資料をもとにその背景を探り、全容の解明にはじめて挑んだ第一級の歴史読み物。 「条約締結からの22か月間を、多くの国家を駒に見立て
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