山梨県大月市の中央自動車道・笹子(ささご)トンネル天井板崩落事故から2日で1年。老朽化したインフラが利用者9人の命を奪った背景を追うと、安全性より効率を優先した工法の採用や点検を考慮しない設計など、事故の「芽」が約40年前の着工時に隠されていた。危険性に気づいた他の道路事業者が対策を講じる一方で、旧日本道路公団や中日本高速道路がリスクを見過ごし続けていた実態も浮かび上がってきた。 「一度差したら絶対抜けない」。1972年の笹子トンネル着工を控え、山梨県内の旧道路公団事務所で開かれた学習会。元職員の小沼俊彦さん(69)は技術職員の言葉に「すごいものができた」と驚いたことを覚えている。 コンクリート壁に穴を開け、接着剤入りカプセルとボルトを押し込むと、内部に接着剤が満たされて固定される「接着系アンカー」工法。コンクリートとボルトを一体成形する工法に比べ、極めて簡便だった。欧州生まれの新工法