近刊書に『周縁を生きる少数民族――現代中国の国民統合をめぐるポリティクス』(勉誠出版)という好書があります。一読して文化人類学研究者たちのいきいきとした若い情熱を感じることができました。 残念ながら論文集なので、一つ一つが孤立していてつながりがありません。それで内容の紹介もそれぞれになります。 本書は三部に分かれていて、第一部は「チベット族のナショナリズム・宗教実践・歴史認識」とされています。1980年代後半からラサを中心に起きた、公然たるデモによる中国当局への抗議運動が、2008年(北京オリンピックの年)の一斉蜂起で頂点に達し、その後焼身自殺による抗議が突出しました。ところがチベット社会にはこれと並行して、目立たたない日常生活でのしずかな抵抗運動があります。 別所裕介論文は、チベット人のデモや焼身自殺といった激しい抗議から、菜食・不殺生・環境保護など柔らかな抵抗にいたる、庶民のナショナリ