本書はミュルダールの経済学の全貌を、「価値前提明示」の方法論と累積的因果関係の理論のふたつの視座からとらえたもの。世界的にみてもミュルダール研究としては、ウィリアム・バーバー『グンナー・ミュルダール』(2008、邦訳2011、勁草書房)を例外にしてほとんど例をみない業績である。 評者に与えられたのは、本書の第2章から第4章までと最終章についてのコメントである。 第2章の要点 なぜ「価値前提の明示」が必要なのか? ミュルダールの方法論:局面Ⅰ 『経済学説と政治的要素』 価値判断と事実認識(信念)は分離できる。 自然法、功利主義の影響にある現在の経済学はこの分離を成し遂げていない ミュルダールの方法論:局面Ⅱ 『アメリカのジレンマ』の付録二以降 価値判断と事実認識(信念)は分離できない。事実認識にも「価値判断が前提」(=価値前提)であることが必要。 「事実認識と価値判断は何をもってしても切り離