前回エントリの続き。BOEによるマネタイズについてクルーグマンは9/25に以下のような追加の考察を行っている。 More thoughts about the UK. As I tweeted earlier, while the not-a-budget is stupid and cruel, hard to see a sterling crisis 1/ But, people ask, what about 1976? Suddenly an old crisis has relevance today. And understanding 1976 is harder than may seem obvious at first glance. 2/ That crisis was clearly a budget/sovereign debt crisis manifesti
という論文をMostly Economicsが紹介している。原題は「Not an ordinary bank but a great engine of state: The Bank of England and the British economy, 1694-1844」で、著者はPatrick K. O’Brien(LSE)、Nuno Palma(マンチェスター大)。 以下はその要旨。 From its foundation as a private corporation in 1694 the Bank of England extended large amounts of credit to support the British private economy and to support an increasingly centralized British state
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学生ローンに苦しむ若者たちは、近く労働党政権が誕生して何とかしてくれると本気で信じている(イベントでコービン支持をアピールする若者たち) Dylan Martinez-REUTERS <多額の学生ローンに苦しむイギリスの若者たちは、近い将来労働党が与党になって学生ローンの負債を軽減してくれることを期待している> 前回のコラム「大学も就職も住宅も『損だらけ』のイギリスの若者たち」では、説明しきれなかった注意点や例外がたくさんあった。「最大で」とか「多くの」「一部の」と条件を付けるべき個所も多かった。文章中に「*」を付けて、最後に脚注で説明したかったくらいだ。 例えば、「*スコットランドの大学に在籍するスコットランド人学生の場合は学費無料」「*RPI(小売物価指数)プラス3%の利息が課されるのは、2012年以降に大学に在学していた学生のみ」「*学費は2012年までは『たったの』3000ポンドだ
2017年6月9日、イギリス下院議員選挙で、議席を伸ばした最大野党・労働党のジェレミー・コービン党首はロンドン北部にある党首自身の小選挙区勝利を受けて挨拶。与党が解散総選挙を仕掛け、当初は与党勝利が予測されてきた中で、与党保守党を過半数割れに追い込んだという意味で大勝利でした。 今回の勝利の背景となっていたのはなんだったのでしょうか。それを知るために今回の挨拶から政策に関わる部分のみを抜き出しました。 この勝利宣言の中で政策に言及したのは、現在の保守党メイ政権による財政支出の過度な引き締めに反対する「反緊縮」政策だけでした。保守党を敗北に追い込んだのは緊縮財政に対する英国民の不満だったのです。 政党の選挙戦略というのは、複雑では、党の組織や候補者の末端まで届きません。ひとつの政策、しかも「反緊縮財政」というクリティカルな選択だけを掲げて戦ったところは、さすが経験豊富なリベラル政治家だと感じ
こんな選挙は見たこともなかった総選挙の3日前、息子の学校の前でPTAが労働党のチラシを配っていた。「私たちの学校を守るために労働党に投票しましょう」「保守党は私たちの市の公立校の予算を1300万ポンド削減しようとしています」と書かれていた。息子のクラスメートの母親が、「労働党よ。お願いね」とチラシを渡してくれた。 その翌日、治療で国立病院に行くと、外の舗道で人々が労働党のチラシを配っていた。「私たちの病院を守るために労働党に投票しましょう」「これ以上の予算削減にNHSは耐えられません。緊急病棟の待ち時間は史上最長に達しています」と書かれていた。配偶者が入院したときに良くしてくれた看護師がチラシを配っていた。彼らはみなNHSのスタッフだと言っていた。 今年で英国に住んで21年目になるが、こんな選挙前の光景は見たこともない。 一般庶民が、(それも、これまではけっこうノンポリに見えた人々まで)そ
「6月8日の総選挙は保守党の大勝」と二週間前に東京で言いまくってきたわたしだが、全くそうじゃない事態になってきた。今月初めまで20%開いていた与党保守党と労働党の支持率の差が、6%(ITV「Good Morning Britain」のためSurvationが行った 5月29日の調査)まで急速に縮まり、コービン党首率いる労働党が奇跡の猛追を見せている。 メイ首相のオウンゴールこのような事態になった発端は、保守党が「認知症税」と呼ばれる悪名高き高齢者ケア案をマニフェストに盛り込んだことにある。これは高齢者ケア費用の複雑な分担の新案だが、要するに高齢者の持ち家を死後に手放させることによってケア費用を負担させ、しかも「一年の無給ケア休暇を認める」という働き方改革案とセットになっていたため、「要するに高齢者と家族の資産と労力を使って高齢者ケアをやれ、国はもう財政支出しません、という究極の緊縮政策じゃ
ケン・ローチのもっともな主張ケン・ローチ監督の『わたしは、ダニエル・ブレイク』日本公開に際し、日本の配給元を中心とした関係者が、「ダニエル・ブレイク」基金を設立しており、劇場公開鑑賞料の一部が寄付されることになっている。これについて、ケン・ローチはこうコメントしている。 「ひとつだけ付け加えたいのは、ともかくチャリティーは一時的であるべきだということ。ともすると、チャリティーというものは不公正を隠してしまいがちだが、むしろ不公正の是正こそが最終目的であることを忘れてはならない」 出典:シネマトゥデイ チャリティーはだいじ。だいじなんだが、そればかり強調されると、英国でのこの映画の捉えられ方とはずいぶん差がでてくる。 ケン・ローチは、実際にフードバンクを視察したり、そこに来ている人々に取材したりして『わたしは、ダニエル・ブレイク』を作っている。そして、彼の怒りはフードバンクをもっと増やせとか
10月2日、イギリスのメイ首相は、イギリスのEU離脱交渉について、来年3月までに始める考えを明らかにした。これをうけて、10月4日に、イギリスの通貨ポンドは31年ぶりの最安値(1ポンド=1.27ドル台)を更新した。 国民投票が終了して以降も、海外を含め多くのマスメディアは相変わらず、イギリスのEU離脱についてかなり否定的である。 ポンドの下落に関する報道も、イギリスのEU離脱を嫌気した投資家があたかもイギリスから資本を逃避させているような印象を与えるものばかりである。 思い起こせば、6月23日のイギリスのEU離脱の国民投票直後も、イギリスがEU離脱を決めたことによってイギリス経済は大打撃を被る、もしくは短期的にも大混乱を起こし、下手をすると、この問題が「第二のリーマンショック」を引き起こしかねないというのが海外を含むマスメディアの論調であった。 だが、ここまでの経済指標を見ると、イギリス経
実質GDP成長率では米国を上回る 6月23日の国民投票でEUからの離脱を決めたイギリス経済にマーケットの注目が集まりつつある。現時点で国民投票後の経済状況を表す経済指標はあまり出ていないが、投票直後に懸念されたようなイギリス経済の悪化はいまのところみられない。 7月27日に発表されたイギリスの2016年4-6月期の実質GDP成長率は、前年比で+2.2%、季節調整済前期比年率換算で+2.4%となった。いずれも1-3月期から成長率は上昇した。 90年代後半からリーマンショック前までのイギリスの平均的な実質経済成長率は3%弱だったので、これと比較するとやや低いが、それでも他の欧州諸国を大きく上回っているばかりか、米国のそれをも上回っている。すなわち、リーマンショック後、イギリスは先進国の中ではもっとも成長率が高い国に分類される。 現時点では、GDP全体の伸び率しか公表されていないが、1-3月期と
ブレイディみかこ『ヨーロッパ・コーリング――地べたからのポリティカル・レポート』(岩波書店) 昨年末、はてな村反省会2015とかいう集まりがあり、ワタシは当然参加していないのだが、そのレポートを見てちょっと良いなと思ったのは、「今年一番良かった人」という話題があったらしいこと。 こういうのいいと思うのだが、そこでヨッピーさん、池内恵さん、ARuFa さんとともに名前が挙げられていたのが本書の著者である。 個人的には内田良さんをリストに追加したいところだが、それはともかく昨年2015年に日本語圏のインターネットにおけるもっとも優れた仕事である著者の Yahoo! ニュース個人ブログを中心に編まれたのが本書である。 『アナキズム・イン・ザ・UK -壊れた英国とパンク保育士奮闘記』、『ザ・レフト─UK左翼セレブ列伝』に続き新刊をご恵贈いただいたが、前作と異なり、収録された文章はほとんど既に読んで
「裏切られたと感じている労働者階級の人々を政界のエリートたちが説得できない限り、英国はEUから離脱するだろう」 2週間前にそう言ったのはオーウェン・ジョーンズだった。 二つに分断された国「おーーーー、マジか!」 という配偶者の声で目が覚めた。離脱だという。 子供を学校に送って行くと、郵便配達の仕事をしているお父さんがロイヤルメールの半ズボンの制服を着たまま娘を学校に連れてきていた。 「まさかの離脱だったね」と言うと、彼も「おお」と笑った。 彼とは昨日も学校で会い、EU離脱投票の話をしていたのだった。昨日の朝は 「残留みたいだね、どう考えても」「ああ、もうそんなムード一色だな」みたいな話を2人でしていたのだった。昨日、彼はこう言っていたのだった。 「俺はそれでも離脱に入れる。どうせ残留になるとはわかっているが、せめて数で追い上げて、俺らワーキングクラスは怒っているんだという意思表示はしておか
パリの同時テロを受け、フランス地域圏議会選で極右政党の国民戦線(FN)が歴史的勝利を収めたそうだが、英国では、シリアへの空爆拡大が下院で可決された2日後に、「強硬左派」ジェレミー・コービン党首が率いる労働党が白星をあげた。 コービンが労働党首となって最初の補欠選挙となったオールダム・ウエスト・アンド・ロイトンの選挙で、苦戦するという予想を覆して労働党候補者が圧勝したのだ。 空爆拡大の是非を問う下院採決では、60名を超す労働党議員が党首に従わず空爆拡大賛成派に回り、労働党はいよいよ分裂かと取り沙汰されていた。特に、影の外相ヒラリー・ベンが、イラク戦争開戦前夜のトニー・ブレアの演説のコピーのようなアゲアゲ系スピーチで「ファシストと戦うのが英国のトラディション」などとぶち上げて大絶賛されたものだから、「コービン体制は終わる」「ヒラリー・ベンが新党首か」と囁かれ始めていた。 が、そのわずか2日後、
英国のPMQ(Prime Minister’s Question Time)が面白くなってきた。英国議会では、毎週水曜日正午から30分間、首相VS野党第一党の党首、その他の各党議員との質疑応答の時間がある。BBC2が毎週生中継で放送しており、世論への影響力の大きい番組だ。 このPMQは、政治家というより天才パフォーマーだったトニー・ブレア首相の時代が面白かった。が、彼がいなくなってから、はっきり言って退屈になっていた。 しかし、新労働党党首のジェレミー・コービンが再びこのPMQを面白くしている。 彼は、「PMQは芝居がかった見世物的イベントになり、質問する側も答える側も本気で政策について話し合っていない。僕はこれを根本から変えたい」と発言し、野党第一党の党首として初登壇した日は、一般の人々からネットで募集した質問を読み上げるいう前代未聞のことを行った。 この奇襲作戦は「新鮮だ」と評価された
著書『21世紀の資本』の日本語版発売に合わせて来日し、東京都内の日本記者クラブで会見する仏経済学者トマ・ピケティ氏(2015年1月31日撮影、資料写真)。(c)AFP/TOSHIFUMI KITAMURA 【9月28日 AFP】英労働党(Labour Party)は27日、ジェレミー・コービン(Jeremy Corbyn)新党首(66)の経済政策を支える諮問委員会のメンバーに、仏経済学者トマ・ピケティ(Thomas Piketty)氏とノーベル経済学賞受賞者の米経済学者ジョセフ・スティグリッツ(Joseph Stiglitz)氏を選任したと発表した。 経済諮問委員会は、労働党の「影の財務相」ジョン・マクドネル(John McDonnell)氏の下で年4回招集され、党の経済政策構想を練る。 ピケティ氏は、富の不平等問題を説いた著作「21世紀の資本」がベストセラーになった。一方のスティグリッツ
こういう見出しを書いていることさえ数カ月前を思えば信じられないが、「マルクス主義の爺さん」と揶揄されたジェレミー・コービンが、下馬評どおりに労働党党首に選ばれた。第一ラウンドで59.1% という圧倒的な得票率は、トニー・ブレアが党首に選ばれた時よりも高いという。 党首発表の会場の後方に座っていた地べた党員は大喜び、前方に座っていた幹部議員たちは目が笑ってない、と、これほど党内の「上」と「下」で反応が違う党首発表もなかった。 しかし、第一ラウンドで59.1%という圧倒的な数字を鑑みれば、いますぐに労働党議員たちが画策してコービンを失脚させることはできないだろう。アンディ・バーナムを推していたブレア時代の副党首ジョン・プレスコットも、BBCニュース24のアナウンサーに会場でつかまると「これは素晴らしい日だ」「伝統的な労働党の価値観が勝利した」と答えていた。あれを見ていると、この人たちはこの勢い
スコットランドで何が起こっているのか――民族とアイデンティティを超えた独立運動 久保山尚 スコットランド史、スコットランド政策研究 国際 #スコットランド#独立運動 イギリス[*1]北方のスコットランドは、UKからの独立を問う住民投票を間近に控えている。 2012年にUK・スコットランド両政府間で住民投票開催が合意され、独立賛成派と反対派がキャンペーンを繰り広げてきた。独立賛成・反対への支持は、2013年末~2014年初頭に若干賛成派が伸びを見せたものの、一貫して賛成3割強、反対5割弱程度で推移し、スコットランドはUK内にとどまるものと思われてきた。 しかし8月に入り、独立への支持が急速に伸び始め、最新の世論調査では賛成派が過半数を超える[*2]など、状況は刻一刻と変化している。スコットランドの独立が俄かに現実味を帯びてきているのだ。 いったい何が起こっているのか。何がスコットランド人を独
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