これはすでに現存しない3つのものについて書かれた本である。 1つは近世から日本に存在していた武道の系譜、古式柔術と呼ばれるものだ。 もう1つは、その古式柔術の流れが絶えたことによって失われた技術である。そして最後の1つは、木村政彦という不世出の武道家の肉体、そして彼が体現していた精神だ。 なぜそれがこの世から消え去ったか。答えは簡単である。歴史とは勝者によって綴られるものであり、その意に染まないものは消し去られる運命にあるからだ。正史とはそうした記述の粛清によって成立したものであり、だからこそ非正規の歴史である野史が民衆によって語られていく。 だが積み重ねられた歳月は重く、昭和から平成に時代が移ったころには古式柔術の系譜とその技術、木村政彦の名が人々の話題に上ることも稀になった。しかしあるとき、歴史の悪戯のような事件がきっかけで失われたものたちが界面へと浮上し、再び光輝を放ち始めるようにな
1つの時代を描くノンフィクションとして、たまらない興奮を感じながら本書を読んだ。あの天才レスラーたちの前半生が、こんな風に紹介されていく。 長与千種は1964年12月8日に長崎県大村市でこの世に生を受けた。 わが子を日本一の競輪選手に育てるという夢を持っていた父・繁は、生まれてくる子が男の子だと勝手に決めつけて出産祝いの準備をしていた。それが女の子だとわかると繁は、用意していたシャンパンをすべて叩き割った。父親が千種を男の子として育てようとしたため、彼女は母・スエ子に買ってもらった赤い靴を履くことができなかった。 千種が小学校に上がるとき、父親は黒いランドセルを、母親は赤いランドセルを買ってくれた。どちらも選べずに千種は、ショルダーバックで学校に通った。 10歳のとき、借金のために一家は崩壊した。出稼ぎのために神戸に移住した両親は、千種を親戚の元に預けた。長与千種は中学校を卒業するとすぐに
【書評十番勝負】 ここ最近は、格闘技の生ニュースがなんかボク的には途切れたので、やっとこういう話を紹介できる。 子殺し 猪木と新日本プロレスの10年戦争 作者: 金沢克彦出版社/メーカー: 宝島社発売日: 2009/07/17メディア: 単行本(ソフトカバー)購入: 12人 クリック: 118回この商品を含むブログ (18件) を見るタイトルの通りで、GK金沢氏が出した「子殺しー猪木と新日本プロレスの10年戦争」は、偶然手に取る機会を得た。というか、職場においてあったのである(笑)。まったくいい仕事環境だよ。 ただ、意外なことに購入者はそれまで格闘技やプロレスを、専門書を買うほど好きだとは初耳の人だった。聞いてみると「やぱりアントニオ猪木って書いてあるから、興味をそそられた」ということであった。あらためて「アントニオ猪木」という名前の求心力と遠心力を感じて、うなったのである。 前書きには面
プロレスラーの失敗はなぜこうも面白いのだろうか。 宝島社のムック本「プロレス下流地帯」はプロレス氷河期時代における墓場荒らしみたいな内容でとてもおもしろかった。売り切れ&大増刷がなされたらしいのだが、プロレスファンとしては複雑な心境である。 今回は、「堅実経営」「プロレス界の盟主」と言われたノアの凋落を取り上げていた。テレビ中継の打ち切りと、やることなすことが堅実というよりただの中途半端で終わっている現状と、深刻な内部抗争を取り上げていた。 また養豚場で働く安田(作業服が板についている)や首を切られた新日の田山レフェリーの告白、道場すら持てないゼロワンの苦境を語るジュニア戦士高岩のインタビューなどが胸を打つ。 しかし何と言ってもおもしろすぎたのは試合よりも団体経営自体がスペクタクルすぎてファンにはこたえられなかった長州のWJだ。経営の中心人物で90年代新日黄金期を築いた永島勝司の著書に基づ
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