ポーランドには蟬がいない。 と、いきなり書いてしまったが、念のため百科事典を見ると、ポーランドに蟬は2種類いるがきわめてまれ、とある。 クラクフでポーランド人といっしょに日本映画を見にいったことがある。映画の中ではアブラゼミがじわじわ鳴いていた。それだけで日本人には夏だとわかる。じっとしていても汗が滲み出てくるあのむっとした暑さが伝わってくる。けれどもポーランド人にはそれがわからない。夏だということがわからないだけでなく、それが虫の声だということからしてわからないのだ。これにはちょっとびっくりしたが、ポーランド人は蟬を見たことも聞いたこともないのだから、考えてみれば当然である。たまたま私の連れは夏に日本に来たことがあり、それが蟬の声だと知っていたが、一般のポーランド人が聞いたら心理描写としての抽象的な効果音だと思うかもしれないと言っていた。また彼自身、初めてツクツクボウシの声を聞いたときは