ナノテクノロジーは近年の応用科学の歴史の中で,“偉大なる次世代技術”と過剰宣伝されてきたのは間違いないだろう。熱烈なナノテク支持者に言わせると,分子どうしを機械的に結合させ,どんなに複雑な物体でも作り出せる分子加工システムだという。 だが,現実は少々異なる。いまや「ナノ」という名称は,基本的に小さければどんなものにも付けられるようになり,「ナノ粒子」なる語がエンジンオイルや日焼け止めクリーム,口紅やスキー板のワックスに至るまで多様な日用品に氾濫している。そんな中,本当に機能する初のナノデバイス──私たちのマクロな日常生活に目に見える影響を与えるもの──がラジオとして登場するとは誰が予想しただろうか? 2007年にカリフォルニア大学バークレー校の物理学者ツェットル(Alex Zettl)が発明したナノチューブラジオは驚くべき性能を示す。1本のカーボンナノチューブが放送信号にチューニングし,増