「ショック・ドクトリン」のインパクト ──『ショック・ドクトリン』現代文庫化に寄せて ナオミ・クラインは二十一世紀に入った世界でもっとも重要な著作を発表し続けている著述家であり、ジャーナリストというより思想家である。 二十一世紀というより、マルクス主義の失効以後と言った方がよい。階級闘争、唯物史観、左右の対立、それを資本主義経済論が支えるといった議論は、市場のグローバル化でまったく場違いになり、仲間うちでしか意味のない閉塞に陥っている。 そこにナオミ・クラインは新しい世界の稜線を描き始めた。『ブランドなんかいらない』(原著一九九九年、邦訳二〇〇一年、はまの出版)は、その最初のマニフェストだった。この本は、PRによるブランド価値の創出が、一方で先進国の消費者マインドを煽りたて、他方で低開発国の社会を食い物にし、人びとをいかに搾取しているかを暴いて、反グローバル化(=もうひとつのグローバル化)