今から50年前の9月29日。 田中角栄総理大臣と中国の周恩来首相が日中共同声明に調印し、日本と中国の国交が正常化した。 歴史が動いたその時、日本の政治家や外交官は中国側とどのような交渉を行ったのか。 大平正芳外務大臣の秘書官として訪中した元外交官が舞台裏を語った。 (岩澤千太朗) ぶっつけ本番の旅 「成算が無いまま中国に行ったんです。国交がないから中国政府と本当の話ができないんですよ。ちょっと表現が悪いんですけど、『ぶっつけ本番の旅』ですね」 1972年9月29日の日中国交正常化を成した5日間の中国での交渉をこう表現したのは、元外交官で、北米局長やイギリス大使を歴任した藤井宏昭(89)。 50年前、藤井は大平正芳外務大臣の秘書官を務めていた。 総理大臣の田中角栄や、外務大臣の大平正芳が訪中した際、大平と行動をともにした。 都内でインタビューに応じた藤井は、記憶の糸をたぐるように語り始めた。