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ブックマーク / skeptics.hatenadiary.jp (13)

  • 製薬業界の反特異点 - シンギュラリティ教徒への論駁の書

    新薬の開発は、2329年には完全に停止します。 製薬業界の研究開発コストに対するリターンは、過去60年間、定常的に指数関数的に低下し続けてきました。シェフィールド大学物理学科教授リチャード・ジョーンズ氏によると、西暦2339年には1件の新薬開発に要するコストが (2013年時点での) 全世界のGDPを超えてしまい、新しい薬品を作ることが完全に不可能となってしまうのだそうです。 2010年までに、失敗に終わった新薬開発の費用を含めて、1つの新薬を開発するために平均で21億7,000万ドルの研究開発費用が費されていました。新薬開発の費用は、収穫加速の法則よりはむしろプランクの原理に従っており、1950年以来、1年に7.6%の割合で指数関数的に増加しています。単純計算では、9〜10年で新薬開発に要する費用が倍になるということを意味します。 もちろん、(ジョーンズ氏自身が認めている通り)、こんな外

    製薬業界の反特異点 - シンギュラリティ教徒への論駁の書
  • 知能爆発派における超知能の出現について - シンギュラリティ教徒への論駁の書

    シンギュラリティ論における重要な論点は、ひとたび汎用人工知能が作られると、何らかの形で「超知能」が発生し、それが科学技術や社会を高速で変化させることによって、予測不能かつ断絶的な進歩が起きるという仮定です。 前回のエントリでは、主にカーツワイル氏の説である「収穫加速派」における超知能について検討しました。 今回は、残りの「事象の地平線派」および「知能爆発派」における超知能の出現について扱います。この2つの派閥に分類されるシンギュラリティ論においては、だいたい以下のようなプロセスを通して「シンギュラリティ」が到来すると主張されています。 超知能体の出現 テクノロジーの進歩により、何らかの「人間よりも優れた超知能」を持つ存在が作り出される。 超知能体による超々知能体の設計 「人間よりも優れた超知能」を持つ存在は、「自身よりも更に優れた超々知能」を設計し、作り出すことができる。 知能爆発と断絶的

    知能爆発派における超知能の出現について - シンギュラリティ教徒への論駁の書
  • 収穫加速派における超知能の出現について - シンギュラリティ教徒への論駁の書

    シンギュラリティ論における重要な論点は、ひとたび汎用人工知能が作られると、何らかの形で「超知能」が作られ、それが科学技術や社会を高速で変化させることによって、予測不能かつ断絶的な進歩が発生する、という仮定です。 なお、この超知能に関する議論においては、以前に私が取り上げたユドコウスキー氏の分類における「事象の地平線派」および「知能爆発派」と、主にカーツワイル氏が唱える「収穫加速派」のそれぞれに対して別の議論が必要となります。 ここでは、まずカーツワイル氏の「収穫加速派」について扱います。 カーツワイル氏は「シンギュラリティ」を「生物学的な人間の脳の限界を、機械と統合された超越的な知能が超えていく点」とイメージしており、それは2045年に発生すると考えられています。 以前にも取り上げた通り、カーツワイル氏は、汎用人工知能の設計と実装について何ら具体的な方針を示していませんでした。ゆえに、20

    収穫加速派における超知能の出現について - シンギュラリティ教徒への論駁の書
  • ジェフ・ホーキンス氏のシンギュラリティ観 - シンギュラリティ教徒への論駁の書

    以前の記事で、私は2種類のシンギュラリティ、すなわち人間を超える超知能が作られる時と、超知能がテクノロジーを高速かつ断絶的に発展させる時を区別しました。 私は、第一のシンギュラリティは起きてもおかしくはない (ただし時期は分からない) けれども、来の意味でのシンギュラリティというような事象が起きることは全くありえない、と考えています。 実際のところ、いわゆる汎用人工知能、人間と同等の人工知能の実現を目指し、研究開発に従事している人であっても、同様の見方をしている人は珍しくありません。 その中の一人が、ジェフ・ホーキンス氏です。ホーキンス氏はPDA (携帯情報端末) を開発したパーム社の共同創業者ですが、現在はGoogleに所属しているほか、自身で創業した人工知能企業であるヌメンタ社の代表を務め、人工知能に関する研究開発をしています。ホーキンス氏が開発したアルゴリズム「階層型時間メモリ (

    ジェフ・ホーキンス氏のシンギュラリティ観 - シンギュラリティ教徒への論駁の書
  • 人工知能の「知能」とは何か。指数関数的に成長しているのか。 - シンギュラリティ教徒への論駁の書

    近年では、特にディープラーニングの発達によって人工知能 (機械学習) の技術が目覚しい速度で発展しています。そして、人工知能技術の進歩は指数関数的であり、このままのペースで進歩が続けば、人間を越える人工知能が近い将来にでも出現するはずだ、という主張を頻繁に耳にします。 けれども、少し立ち止まってよく考えてみてほしいのですが、人工知能研究において一体何の量が指数関数的に、つまり一定間隔のうちに倍々に増えているのでしょうか。 人工知能の研究ないし「知能」が指数関数的に増加しているという証拠は、全く何もありません。いかなる基準で人工知能研究の進捗を測定できるのか誰も定義できていませんし、まして、人工知能の「知能」をどのように測るのか、その方法はまったく不明であるからです。 コンピュータ分野において指数関数的増加を実証的に確認できるのは、ムーアの法則をはじめとする、人工知能を作成するためのリソース

  • クラークの三法則に関する断章 (3) 「十分に発達して"いない"科学技術は、魔法と見分けがつかない」 - シンギュラリティ教徒への論駁の書

    今回は、クラークの三法則の最後の法則であり、おそらく最も広く知られているであろうこの法則を扱います。 『十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない。』 " Any sufficiently advanced technology is indistinguishable from magic." この法則は、ロドニー・ブルックス氏が述べている通り、次のように言うべきでしょう。 『十分に発達して"いない"科学技術は、魔法と見分けがつかない。』 ブルックス氏は「アイザック・ニュートンが、仮に17世紀から現代にタイムマシンで連れられてきたとして、iPhoneを見てその動作原理を理解できるだろうか」というたとえ話を挙げています。ニュートンは電磁気学が確立する以前の時代の科学者であるため、彼ほどの天才であろうとも、充電の必要性などのiPhoneの制約については理解できなかっただろう、と言うので

    クラークの三法則に関する断章 (3) 「十分に発達して"いない"科学技術は、魔法と見分けがつかない」 - シンギュラリティ教徒への論駁の書
  • 人工知能と天然知能の違い - シンギュラリティ教徒への論駁の書

    これまで何度か述べてきた通り、私は必ずしも「人間と同様の知能を持つ人工物」が不可能であるとは考えていません。けれども、人間と同様の知能を持つ「人工物」は、おそらく現在の「コンピュータ」ではなく、また、それが実現されるまでには現在想像されているよりも長い期間を要するでしょう。 これまでの人工知能研究が、なぜヒトと同等の知能を作り出せていないのかという問題は、回答が非常に難しい問題です。けれども、人間と同等の人工知能を作成するために必要であると考えられ、また、現在の人工知能研究ではあまり着目されていないと思われる点を三点挙げたいと思います。 まず、人間は後天的に得られる情報だけをもとにして学習しているわけではないということです。 精神転送に関する連載の中で、生後数日の新生児にすら人の顔を認識し識別する能力が備わっていることを示した研究を紹介しました。あるいは、母語獲得の過程において、子供が耳に

  • ことばの意味と画像:ディープラーニングは言語の意味を理解したのか - シンギュラリティ教徒への論駁の書

    最近では、ディープラーニングの進歩によって、パターン認識の分野で大きな発展が起きています。特に、画像認識が急速に発達し認識率が高まったことによって、この手法を使い画像と言語を対応させることによって、言語の意味の理解も可能になるはずだ、という主張が聞かれます。 画像認識がディープラーニングによって急速に発展したことによって、新たな応用領域が生まれた。何でもいい。とにかく画像へ置き換えろ。そうすれば、画像認識の領域へ帰着できる。テキスト?画像に置き換えろ。化学式?画像に置き換えろ。数式処理?画像に置き換えろ。グラフの処理?画像に置き換えろ — 小鳥遊りょう(jagurimath) (@jaguring1) 2017年9月8日 自然言語処理において、テキストをテキストとして扱う必要は必ずしもないと思っている。画像認識・画像生成技術が急速に発展しているのだから、「文章が書かれた画像」を入力し、「

    ことばの意味と画像:ディープラーニングは言語の意味を理解したのか - シンギュラリティ教徒への論駁の書
  • 強いAI/弱いAI、汎用人工知能 - シンギュラリティ教徒への論駁の書

    人工知能 (Artificial Intelligence)」という言葉は、ドミニク・チェン氏が指摘している通り、人間に対して2種類の問いを投げかけるものです。すなわち、「知能」を人工的に再構築することができるのかという問いと、そもそも「知能」とは一体何であるのか、という問いです。 未だ人間は「人間の知能」とは何であるかを、厳密な意味において定義できていません。それゆえに、「人工知能」という言葉自体も、「知能」と「人工知能」の研究の進捗に従って、その意味は変化を続けています。 さて、人工知能に関わる言葉の中でも、大きな混乱と意味の変化と誤用(?)が生じている言葉があります。タイトルでも取り上げた、「強いAI/弱いAI (Strong AI/Weak AI)」と「汎用人工知能 (Artificial General Intelligence; AGI)」という単語です。これらの言葉は、サイ

    強いAI/弱いAI、汎用人工知能 - シンギュラリティ教徒への論駁の書
  • シリコン製の天国と来世 - シンギュラリティ教徒への論駁の書

    ここまで、精神転送の実現可能性について計算機科学と脳神経科学の観点から検討してきました。 再度、私の結論を繰り返すと「原理的には精神転送は不可能ではないにせよ、カーツワイル氏やシンギュラリタリアンの議論においては、その実現の困難さが相当に低く見積もられており、今生きている私たちの寿命のタイムスパンで実現される可能性は相当に低い」と考えています。 実際のところ、精神転送は現在の計算神経科学においてメインストリームの研究テーマではありませんし、多くの人も「数十年以内に脳をコンピュータにアップロードできるようになる」という主張は、ありえないレベルで馬鹿馬鹿しい主張だと一笑に付すでしょう。 けれども、ここで私が精神転送を強く批判したのには理由があります。精神転送は、宗教の持つ力が弱まった現代において、来世と永遠の生命のイメージを強く喚起するものであるからです。 キリスト教徒が千年王国を夢想し、仏教

    シリコン製の天国と来世 - シンギュラリティ教徒への論駁の書
    tencube
    tencube 2017/08/17
    「愛する者と自分自身の避け難い死に対して対処することは可能ですし、実際のところ、人類は死に対して対応してきました。」
  • コネクトーム:脳の中をのぞきこむ? - シンギュラリティ教徒への論駁の書

    前回のエントリでは、カーツワイル氏の脳に対する理解が誤っており、脳の複雑さに対する推定が過少であるという生物学者からの指摘を紹介しました。 けれども、公平のため述べておくと、カーツワイル氏も脳を再現するためには脳自体を観察する必要があることを認識しており、そのための手法についても述べています。そこで、今回は脳を観察するための手法と、脳の「配線図」の解明について検討します。 脳の機能の研究と精神転送のためにまず必要となるのは、脳の「配線図」すなわち神経科学者が「コネクトーム」と呼ぶ、ニューロンや領野間の接続状態を明らかにすることです。次回述べようと思いますが、コネクトームの解明は人間の精神現象の理解と精神転送の十分条件ではありません。けれども、コネクトームの解明が人間の脳と精神活動の解明のために必要となる一つのステップであることは間違いありません。 ヒトコネクトーム 人間の脳はおよそ100億

    コネクトーム:脳の中をのぞきこむ? - シンギュラリティ教徒への論駁の書
  • 書評:『そろそろ、人工知能の真実を話そう』ジャン=ガブリエル・ガナシア - シンギュラリティ教徒への論駁の書

    そろそろ、人工知能の真実を話そう 作者: ジャン=ガブリエルガナシア,伊藤直子,小林重裕 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 2017/05/26 メディア: 単行(ソフトカバー) この商品を含むブログを見る このの著者であるガナシア氏は、パリ第6大学のコンピュータサイエンス学部で教授を務める哲学者であり、書は、人工知能などの知性が人間を超越し、現在の人間には想像もできない超越的なテクノロジーの進歩をもたらすとするシンギュラリティ説と、その信奉者を批判するものです。 もはや私の自己紹介の必要は無いかもしれませんが、私はシンギュラリティ論には懐疑的な考え方を持っており、かつ、それが現在実践されているテクノロジーの研究開発に対して、現実的な悪影響を与えていると捉えている者です。 その意味では、私の立場は著者のガナシア氏と同一であると言え、基的には私はガナシア氏の主張に賛成しています

    書評:『そろそろ、人工知能の真実を話そう』ジャン=ガブリエル・ガナシア - シンギュラリティ教徒への論駁の書
  • シンギュラリティ教徒への論駁の書

    第一部 「シンギュラリティ」 序文 シンギュラリティとは何か? - カーツワイルのシンギュラリティ説とその批判 ほとんどのテクノロジー成長は指数関数的ではない 収穫加速の幻影 ムーアの法則と人工知能 5.1. ムーアの法則 5.2. 精神転送 5.3. 人工知能研究と機械学習 5.4. 全脳アーキテクチャ 知能の拡大と思考主義批判 宇宙の覚醒 - まとめ 予言は外れた テクノ・ハイプ論:なぜシンギュラリティは問題か 後書き 第二部 「進歩と崩壊と没落の未来史」 序文 ハバートの法則と没落加速の法則 没落してゆく世界のスケッチ 崩壊概論 進歩の神話 崩壊教と進歩教 ディセンサスの流儀 後書き (執筆中…) 第三部 「技術的超越の思想史(仮題)」 (構想中…) ブログは、カーツワイル氏のシンギュラリティ説と「収穫加速の法則」を批判的に検証するものです。もともと書籍の企画として執筆し始めたもの

    シンギュラリティ教徒への論駁の書
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