予告編で描かれていた、地面が波打ち唸り声をあげるような関東大震災、昭和恐慌の取り付け騒ぎで銀行に群がる群衆たちの描写(そして、これも予告テロップとして流れた「苦難の時代を、当時の若者はどう生きたか」の言葉)などを観て、これは零戦に象徴される、貧しい後発帝国主義国家の栄光と悲惨を描いた、昭和版『坂の上の雲』かプロジェクトXのような映画じゃないかと、勝手に期待していた。 しかし、本編はそれとはまったく違った映画だった。 最近の宮崎駿の数作同様、物語としてのタイトな纏まりはほぼ放棄。主人公の幻想含めた、シーンの断片の緩やかな連続として語られるのは、「飛行機」という美と夢に憑かれたひとりの人間を、ひたすら追った物語だった。 堀越二郎という、当時のブルジョア子弟にして大エリートを主人公とする以上、そこに昭和の庶民一般の暮らしと歴史を仮託するのは無理筋だと覚悟はしていたけれど、それにしても震災も恐慌も