夫の横田滋さんの命日を前に、会見する早紀江さん=5月30日中国の古典『詩経』に恋の詩がある。<彼の蕭(よもぎ)を采(と)る/一日見ざれば/三秋の如(ごと)し>。草を摘む女性に思いを募らせた一編だという。会えない1日が3年にも思われるほど、あの人が恋しい―と。「一日三秋」の由来とされる ▼秋が「年」の意味で用いられるのは、作物の豊凶が国や人々の消長に関わるからだと聞く。わが国では「一日千秋」の方が耳なじみだろう。その四字熟語をつぶやく度、胸に痛みを覚える。今年もまた、そんな季節が巡ってきた。「また」と書かねばならないことが実に悔しい ▼横田めぐみさん(59)が北朝鮮に拉致されてから46年がたった。昭和52年11月15日の事件当日を含め、きのうまで1万6802日を数える。帰りを待つ母の早紀江さんら家族にとっては、一日千秋の言葉も歳月のむごい仕打ちと思われたに違いない
横田めぐみさんの帰国を願い、母・早紀江さん作詞の歌を合唱する新潟小の児童ら=14日、新潟市中央区(本田賢一撮影) あれから46年となった。それがどれだけ長く、つらく、残酷な年月であったことか。 昭和52年11月15日、新潟市の中学1年生、横田めぐみさんはバドミントン部の練習後、帰宅途中に北朝鮮の工作員に拉致された。 わずか13歳だった可憐(かれん)な少女はそのまま工作船で北朝鮮に連れ去られ、家族との再会を果たせないでいる。 平成14年9月の日朝首脳会談で当時の金正日総書記が拉致を認めて謝罪し、蓮池薫さんら5人の被害者が帰国した。 だが、めぐみさんらについては一方的に「死亡」と伝えられた。その説明も二転三転し、16年には「遺骨」まで送り付けられたが、DNA鑑定で別人のものと判明した。 こうした理不尽な経緯の一つ一つが、どれだけ娘の帰りを待つ家族を傷つけてきたか。 岸田文雄首相は15日、「いま
借りたい本を書棚から抜き出し、そこに厚い板を差し込む。昔の学校図書館では、当たり前の光景だった。「代本板」という。アナログ世代には、うなずく人も多かろう。誰が何を借りているかが一目で分かるようになっていた。 ▼「本が抜かれたあとの隙間や代本板は、そこにあるべき本の存在を感じさせる」。歌人の永田紅さんが小文『代本板とZoom』の中で、懐かしんでいた(『ベスト・エッセイ2021』所収、光村図書)。本の留守を埋める束(つか)の間の代役である。 ▼時がたてば本は戻ってくる。その人の不在はしかし、46年になる。きのう訪ねた会場には、主(あるじ)の帰りを待つ木綿がすりの着物、紺の浴衣、白地のワンピースが展示されていた。13歳で北朝鮮に拉致された横田めぐみさん(58)が、家族と過ごした日々の中で着ていたものだという。
北朝鮮による拉致被害者の家族らを、ここまで追い詰めたのは誰か。 もちろん悪いのは、無(む)辜(こ)の日本人を国家主導で拉致、誘拐し、解決に向けても背を向け続ける北朝鮮である。 ただ家族会の怒りは、事態を打開できぬまま時ばかりが過ぎていく日本政府の交渉にも向けられている。政府はこの事実を重く受け止めなくてはならない。 拉致被害者の家族会と支援組織「救う会」が被害者救出に向けた今年の運動方針を決定した。日本政府に「(被害者の)親世代が存命中」の全拉致被害者の即時一括帰国を求める一方で、一括帰国が実現するのであれば「北朝鮮に対する人道支援には反対しない」との立場を初めて明記した。 従来の北朝鮮の核・ミサイル問題との包括的解決から、拉致問題の単独解決に向けて、一歩踏み出した方針といえる。 背景には「親世代」の超高齢化がある。拉致被害者の親世代は多くが亡くなり、2人だけとなっている。横田めぐみさんの
会議終了後、会見する(左から)横田早紀江さん、横田哲也さん、横田拓也さん=26日午後、東京都港区(斉藤佳憲撮影) 北朝鮮による拉致被害者家族会と支援組織「救う会」が26日に公表した新たな運動方針では、全被害者の即時一括帰国に向け、日本政府による北朝鮮への人道支援実施については許容する意向を示した。親世代が健在でいる間の再会実現を目指す中、わずかでも事態進展の呼び水になれば、という切実な思いが透ける。 「もう、いつ何が起きてもおかしくない」 同日、家族会と救う会の合同会議後に開かれた会見。横田めぐみさん(58)=拉致当時(13)=の弟で家族会代表の拓也さん(54)は、今の心境をこう述べた。 視線は、同席した母の早紀江さん(87)に向いていた。今年、令和2年に87歳で亡くなった父の滋さんと同じ年齢に達した早紀江さん。息子として心配は募る。 救出運動の大前提は、早紀江さんら親世代が存命の間の解決
北朝鮮による拉致被害者家族会と支援組織「救う会」の合同会議に臨む(左から)有本明弘さん、横田早紀江さん、横田哲也さんら=26日午後0時59分、東京都港区(斉藤佳憲撮影) 北朝鮮による拉致被害者家族会と支援組織「救う会」は26日、東京都内で合同の会議を開き、被害者救出に向けた今年の運動方針を決定した。昨年に続き、日本政府に対し、「(被害者の)親世代が存命中」の全拉致被害者の即時一括帰国を求めるとした一方、一括帰国が実現するのであれば「(北朝鮮に対する)人道支援の実施には反対しない」との立場を初めて明記した。 新方針では、岸田文雄首相が昨年10月の国民大集会で、拉致・核・ミサイルという日朝間の懸案事項に関し、「拉致問題はとりわけ、時間的制約のある人権問題」と指摘したことに言及。被害者家族の高齢化が進む中、家族会などは拉致単独での進展を希望しており、「事実上、拉致を切り離すもので私たちの訴えが通
特定失踪者問題調査会が作成しているポスター拉致問題を内閣の最重要課題と位置づける岸田文雄首相は「自ら先頭に立ち、すべての拉致被害者の一日も早い帰国を実現すべくあらゆるチャンスを逃すことなく全力で取り組んでいく」と公言する。 そもそも、「すべての拉致被害者」とはいったい何人いるのか。正確な数は分かっていない。 政府認定の拉致被害者は12件17人。このほかに、未遂事件(1件2人)があった。さらに、北朝鮮による拉致の可能性を排除できない行方不明者は873人(令和3年11月現在)いる、と政府の拉致問題対策本部は発表している。 「うちの子も…」20年前の平成14年9月17日。日朝首脳会談後に平壌で行われた政府関係者のブリーフィング(状況説明)で、生存と伝えられた被害者の情報が報道陣にもたらされた。 蓮池薫さん(65)、祐木子さん(66)夫妻、地村保志さん(67)、富貴恵さん(67)夫妻…。ペンを走ら
北朝鮮による拉致被害者、田口八重子さん(67)=拉致当時(22)=の兄で、家族会前代表の飯塚繁雄さんが昨年12月に83歳で亡くなってから、18日で1年。田口さんの長男で、繁雄さんに養子として育てられた飯塚耕一郎さん(45)が産経新聞の取材に応じ、「絶対に諦めない」と言い残し、この世を去った繁雄さんへの思いを語った。 父の背中「もう2人じゃないんだな」。耕一郎さんは、平成16年に田口さんの長男であることを明かし、繁雄さんと全国各地を奔走し、拉致被害者の救出を訴えてきた。田口さんは昭和53年ごろ拉致された。当時、耕一郎さんは1歳で、繁雄さんが養子として引き取った。耕一郎さんに母の記憶はないため、実母を「八重子さん」と呼ぶ。平成19年からは繁雄さんが家族会代表となり、集会やシンポジウムで登壇する繁雄さんの背中を見てきたが、もうそれはかなわない。そんなとき「寂しさを感じる」という。 繁雄さんが代表
授業で使われた映像に出てきた横田めぐみさん。拉致から45年が経過し、風化させないために若い世代への発信が求められている=11月30日、香川県坂出市 北朝鮮による拉致問題を若い世代にどう伝えていくのかが課題となるなか、教員を目指す大学生らが、児童生徒にどう拉致問題を教えるかを学ぶ取り組みが進んでいる。その取り組みを経た香川大の学生らが小学校で行った授業で、児童らが学んだのは「家族と過ごすありふれた日常の貴重さ」。横田めぐみさん(58)=拉致当時(13)=が北朝鮮に拉致されてすでに45年。学生らは「今も続いている問題として若者もしっかり考えないと」と将来に目を向ける。 家族との日常の重み「家族が私たちに望んでいることは」-。11月末、香川大教育学部付属坂出小(香川県坂出市)の5年生に同大教育学部4年の4人の学生が投げかけた問いだ。担当したのは高木萌菜さん、岩崎あかねさん、岡井紗也香さん、豊嶋美
政府認定の北朝鮮による拉致被害者の一人、松本京子さん=拉致当時(29)=の出身地・鳥取県は3月末、拉致問題理解促進のためのDVDを独自に製作した。被害者家族連絡会(家族会)のメンバーで京子さんの兄の孟(はじめ)さん(75)と、京子さんの職場の同僚だった女性がインタビューに答え、早期解決を訴える内容。孟さんが講師を務め、県が10年以上前から実施している拉致問題人権学習会で活用する予定だが、DVD製作の背景には近年浮き彫りになっている被害者家族の切実な事情があった。 負担軽減がねらい「拉致被害者やご家族の高齢化が進んでいる。今後、松本孟さんが遠隔地などの講演先に出向けないケースが出てくるかもしれない。その補助として製作した」 県人権・同和対策課係長の杉野浩之さんは、DVD「みんなで知って考えよう 鳥取県の拉致問題」製作のねらいをこう説明した。 «松本京子さんは昭和52年10月21日、「編み物教
北朝鮮に拉致された横田めぐみさんに宛てた手紙=18日(酒巻俊介撮影)北朝鮮に拉致された横田めぐみさん(57)=拉致当時(13)=に宛てた手紙が、さいたま市立新開(しびらき)小学校、千葉県八街(やちまた)市立朝陽(ちょうよう)小学校、兵庫県加西市立泉中学校、甲子園短期大学(同県西宮市)などから産経新聞に届いた。泉中などでは産経新聞が拉致問題の「出前授業」も実施した。めぐみさんが拉致された疑いが家族に伝えられてから今年で25年。児童・生徒、学生はそれぞれがこの歳月の重みを感じ、家族の苦しみに寄り添い、早期の解決を望む。思いの一端を紹介したい。 「学ぶ機会ないのが一番の問題」 甲子園短期大学1回生 神戸優歌さん(19)拉致問題について知ったのは小学生のころ、ニュースを見ていた両親からでした。中学、高校と年齢が上がるにつれ自身でもニュースを見るようになり、まだ未解決であることに驚きました。 今、何
オンラインの出前授業で、拉致問題について話をする中村将編集長。横田めぐみさんの写真などを使って説明した=18日午後、東京・大手町の産経新聞社(飯田英男撮影)北朝鮮による拉致問題のオンライン出前授業が18日、兵庫県加西市立泉中学校で行われた。産経新聞東京本社の中村将(かつし)編集長が2年生約60人に講義し、「拉致を自分の問題と考えてほしい」と訴えた。 中村編集長は拉致の目的や被害者家族の苦しみ、救出に向けた活動などについて説明。被害者の一人、横田めぐみさん(57)=拉致当時(13)=が、中学生で拉致されたことに触れ、「家族が突然いなくなり、北朝鮮にいるのが分かっているのに取り返せない。これを自分のこととして考えてほしい」と語りかけた。 生徒はめぐみさんの母、早紀江さん(86)が被害者の早期救出を求める動画も視聴した。 生徒からの「解決のために自分たちは何ができるか」の質問に対し、中村編集長は
北朝鮮による日本人拉致問題啓発のため、被害者の横田めぐみさん(57)=拉致当時(13)=を題材にした舞台劇「めぐみへの誓い―奪還―」が26日、仙台市内で開かれた。昭和52年11月に横田さんが新潟県の海岸で北朝鮮の工作員に拉致されて今年で45年となるが、救出の道筋は見通せないままだ。拉致問題への関心が宮城県でも薄れつつあり、関係者は危機感を強めている。 「朝鮮語を勉強する理由は…日本へ帰りたいからです。お母さんに会いたい、お父さんにも会いたい」 北朝鮮で18歳になった横田さんを演じる女性が訴えると、当局者役の男性はこう突き放し、思想教育の再徹底を指示した。 「主体(チュチェ)思想を揺るぎないものとして確立するんだ。やらなければ危険思想の持ち主として炭鉱にほうり込むぞ!」 絶望した表情を浮かべた横田さん役の女性はその場にうずくまった-。 公演は政府や県などが主催し、被害者が拉致された経緯や北朝
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