2012年に世界を震撼させた「ヒッグス粒子」の発見。本書は、その発見にいたるまでの人類の歴史と、その先に広がる量子物理学のフロンティアをノーベル賞量子物理学者が綴った一冊である。宇宙の始まりを解き明かせるくらいの極小な世界を探索していく中で、今、実験物理学には大きなパラダイムシフトが起きているという。本書に余すところなく描かれたそのダイナミズムを、翻訳者の青木薫さんに解説いただきました。(HONZ編集部) 実験家が一般読者のために本を書くこと自体、まずめったにない。一般向けの物理学の本は、ほとんどすべてと言っていいほど、理論家によって書かれているのである。 そうなってしまう理由は明らかだ、と、本書、『量子物理学の発見』の著者であるレオン・レーダーマンは、かつてこう書いている。 「なんたって連中(理論家)には、時間がたっぷりあるんだから」。 本を書けるのは、ヒマだからさ、というわけだ。「いや