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ブックマーク / kasasora.hatenablog.com (6)

  • セフレですよ、不倫ですよ、ねえ、最低でしょ - 傘をひらいて、空を

    仕事の都合で別の業種の女性と幾度か会った。弊社の人間が、と彼女は言った。弊社の人間が幾人かマキノさんをお呼びしたいというので、飲み会にいらしてください。 私は出かけていった。私は知らない人にかこまれるのが嫌いではない。知らない人は意味のわからないことをするのでその意味を考えると少し楽しいし、「世の中にはいろいろな人がいる」と思うとなんだか安心する。たいていはその場かぎりだから気も楽だし。 彼らは声と身振りが大きく、話しぶりが流暢で、たいそう親しい者同士みたいな雰囲気を醸し出していた。私を連れてきた女性はあっというまにその場にすっぽりはまりこんだ。私は感心した。彼女は私とふたりのときには同僚たちに対していささかの冷淡さを感じさせる話しかたをしていた。 どちらがほんとうということもあるまい。さっとなじんで、ぱっと出る。そういうことができるのである。人に向ける顔にバリエーションがあるのだ。私は自

    セフレですよ、不倫ですよ、ねえ、最低でしょ - 傘をひらいて、空を
    ytn
    ytn 2019/09/18
    “彼らは、恋愛やセックスの話をしていたんじゃないんです。自分がいかに他人を振り回して身勝手に振る舞えるかという話をしていたんです。あのね、彼らは、権力の話をしていたの”
  • 口説く男を憎まないためのたったひとつの条件 - 傘をひらいて、空を

    そうだ今日は男の人から口説かれたのに不愉快じゃなくてね。不愉快じゃないのは珍しいからうれしかったよ。つきあうことはないだろうけど、なんだか感謝しちゃう、私の世界の殺伐度がすこし下がった気がするから。 彼女はそのように話す。殺伐度、と私は思う。いいことばだ。殺伐とした心境にもいろいろなレヴェルがある。そしてある種の人間は人生のおおかたの時間、殺伐と無縁ではない。私もそうだし、目の前の友だちもそうだ。私たちはだいたい暗い。少女のころから夢とか希望とかはあんまり持っていなかった。生き延びることが最優先で、その先のことはとくに考えていなかった。そのような戦略によって私たちは生き延びた。「生き延びた」といえる境遇と年齢にあっては、殺伐とした部分はおおよそ保険みたいなもので、いざとなったら発動する非常用装置のひとつにすぎない。存在意義はあるし、今さら追い出すわけにもいかないくらい一体化してもいるけれど

    口説く男を憎まないためのたったひとつの条件 - 傘をひらいて、空を
    ytn
    ytn 2015/12/10
    相変わらず名文
  • いくつかの種類の下劣な要求 - 傘をひらいて、空を

    同業の会社がいくつか参加しているパーティに出る。酔っぱらいに絡まれたので適当に笑顔で交わしてその場を去る。彼女はそういう人間に慣れているけれど、愉快ではない。しばらく社交を遂行していると、また同じ人物につかまる。少し離れたところにいる仲の良い先輩が気を利かせて彼女の名を呼ぶ。彼女ははーいと返答しすみませんねとにっこり笑って背をむけかけた。上腕をつかまれた。 無表情で振り返るとその男はわあ怖いといかにも冗談らしい声を出して彼女の腕を離さない。離してくださいと彼女は言う。男はへらへら笑って怖あい怖あいと甘えた声を出す。あのさあ、さっき、そこの若い人頼むわって言われて嬉しそうにいそいそ手伝いに行ってたじゃなぁい、そういうの痛々しいからやめたほうがいいって、これ僕からの忠告ね、若い若いって言われてそんなね、真に受けちゃって、見てらんないよお、あんた若くないでしょお、若くないでしょうよ。 先輩が駆け

    いくつかの種類の下劣な要求 - 傘をひらいて、空を
    ytn
    ytn 2014/10/29
    "私たちは誰かの貼ったレッテルにしたがう必要はないんだ。ああいう連中は徹底的に排除すればいいんだ。私たちが女であろうが男であろうが年齢がいくつであろうが、誰かが不当な要求をする理由はない。"
  • だめになった女の子 - 傘をひらいて、空を

    実名で登録するSNSは登録したきりでほとんど使っていなかった。けれども最近、年賀状を出しているかと尋ねられ、いいえと答えたらせめて実名SNSをやれと言われた。あれは年賀状である、と。なるほどと思った。省力化され年に何度出してもよく出さなくてもよい、年賀状。 以前よく使用していたパスワードでログインしそれを今使用しているものに変え(私は多くのサービスで五種類のパスワードを使用し定期的にそれらを更新する)、溜まっていたリクエストのうち知人であることが確認できたアカウントを片端から承認し、次いで「友だちでは?」というレコメンドのうち知人であることが確認できたものに片端からリクエストを出していく。ほどなくそれらは承認され、私はみんながまめにSNS上で活動していることにぼんやりと感心する。うんと古い友だちからメッセージが入ったりして少し楽しかった。四人目までは。 メッセージをくれた四人目は中学のとき

    だめになった女の子 - 傘をひらいて、空を
  • オオカミたち - 傘をひらいて、空を

    待ち合わせに遅れるという連絡を受けてひとりでを読んでいるとごめんねえと言いながらちっとも罪悪感のないようすで彼女はあらわれた。そうとう上等ではてしなく地味なスーツ、匿名的な時計、そのほかのアクセサリはなし。そんなはずはないのにモノクロームの印象を与える色数の少ない化粧をして、そのなかの目が爛々と光っている。戦闘の日ですかと私はたずねる。戦闘の日でしたと彼女はこたえる。たのしかったんだねと私は言う。けっこうダメージくらってるよう、と彼女は笑い、それがたのしいんだなと私は思う。 会社の利益を背負ったタフな交渉のダメージって、どのへんに受けるの、頭、気力、それとも、自尊心とか?尋ねると彼女はお行儀わるく首を反らしてグラスをあける。こういうときの彼女の動作はふだんより粗雑で、目つきは野蛮で、注意深く纏わせたパッケージをばりばり破いちゃったみたいに、純度が高い。椅子の背をめいっぱい使って両腕を肘掛

    オオカミたち - 傘をひらいて、空を
    ytn
    ytn 2014/06/04
    ぞくぞくくる文章。表現力のある人に短編漫画にしてもらいたい。/でも、野犬は狼を追い払うことだってできる。野犬には野犬なりの矜持がある。犬であることに卑屈になると負け犬になってしまう。
  • パーフェクト・ウーマン最後の課題 - 傘をひらいて、空を

    可愛いねえと言うとありがとうと彼女は言った。でもそれ見のまんまなの。見のまんまにできるなんてすごいなあと私は感心してしまう。そもそも保育園の子の持ちもののすべてを手作りして刺繍まで入れるなんてすごいし、子どもを産んでいることもすごいし、仕事の量と質もすごいし、結婚相手と二人でがんがん働いて家まで建てたし、全体に偉業を成している人というかんじがする。いつだって感じのいい服を着て、ものやわらかなようすをしている。この人は私みたいに「めんどくさい」という理由のみで化粧もせず出勤したり、大鍋でカレーを作って三日間べ続けたりしないんだろうと思う。いつのまにかシャツにそのカレーが落ちていることもないと思う。大鍋で両手がふさがっていても足でドアを閉めないんだろうと思う。 でも可愛くないでしょう、見のまんまじゃあ。彼女は珍しく少しばかりバランスの崩れた表情をちらりと見せる。私は刺繍を見る。花柄だ。

    パーフェクト・ウーマン最後の課題 - 傘をひらいて、空を
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