コラムニストの、と呼んでよいのかためらうが山本夏彦氏が亡くなったのは21世紀になってから。正確には「夏彦の影法師―手帳50冊の置土産(山本伊吾)」(参照)にあるように、2002年(平成14年)10月23日午前3時50分。未明であった。87歳。彼の好きな享年でいうと88だろうか。米寿。沖縄ならトーカチ。長寿の部類であることは間違いないが、その年の彼の活躍を見るともっと生きていそうにも思えた。生涯記したメモ帳にはその月の13日に「ゲラ出る。間に合う」とあり、最後まで物を書く人であった。 本書は彼のご長男が書いたもの。伊吾氏、1946年生まれ。本書にもあるが新潮社の写真誌フォーカスの編集長をされていた。その地位にはなんとなく父親の七光りもありそうにも思えたものだが、そういうことはまったくない。では父譲りの文才であったかというと、そこもストレートに結びつくものではない。が、本書を読んでみると、ああ