立国(りっこく)は私(わたくし)なり、公(おおやけ)に非(あら)ざるなり。地球面の人類、その数億のみならず、山海(さんかい)天然(てんねん)の境界(きょうかい)に隔(へだ)てられて、各処(かくしょ)に群を成し各処に相分(あいわか)るるは止むを得ずといえども、各処におのおの衣食の富源(ふげん)あれば、これによりて生活を遂(と)ぐべし。また或は各地の固有に有余(ゆうよ)不足(ふそく)あらんには互にこれを交易(こうえき)するも可(か)なり。すなわち天与(てんよ)の恩恵(おんけい)にして、耕(たがや)して食い、製造して用い、交易(こうえき)して便利を達す。人生の所望(しょもう)この外にあるべからず。なんぞ必ずしも区々たる人為(じんい)の国を分(わかち)て人為の境界を定むることを須(もち)いんや。いわんやその国を分(わかち)て隣国と境界を争うにおいてをや。いわんや隣(となり)の不幸を顧(かえり)みず