見えないスラム ピカピカの外壁、セキュリティの整ったマンション・エントランス、開放感のある整備された駅前広場……。都市空間が安全でクリーンになっていくのに、そうした風景の背後で私たちの生活世界はあちこちで荒廃している。相対的貧困、高い自殺率、単身世帯の増加と孤独死、幼児虐待や家庭内暴力……、この社会を覆う閉塞感の正体は一体なんなのだろうか。 一般的に日本には「スラム」は存在しないと言われている。プロパーな都市計画分野において日本はスラムクリアランスに成功した国ということになっている。しかし、それは都市社会学者マイク・デイヴィスが論じてきた南米、インド、東南アジアにあるようなインフォーマルな住まいが高密度に空間を占有するメガ・スラム的なるものを想像するからであり、生活に必要な「インフラ」から切れているという広義の意味でスラムを捉えれば、日本には明らかにスラム的ななにかが社会のなかに増殖してい