Appleから逃げるように去り、人生の目標を失ったジョブズだったが、癌の遺伝子治療に役立つワークステーションを創ろうと決意。ネクスト社を創業し、再起した。彼の新作ネクスト・キューブには後のiPhoneの中核技術が宿されており、それは巡り巡って音楽産業を救うことになるが、当時、誰も知る由もなかった。 ■Appleから追放。癌で養母を失い再起を誓ったジョブズ うららかな土曜日のことだった。メンロパークにある広場の芝生では、子どもたちが駆けまわり、大人たちはホットドッグを頬張ってジョブズのひらいたピクニックを楽しんでいた。 三十代の半ばに達したジョブズは少し離れた木陰で、社員の家族たちの笑い声を聴いていた。側には友人の記者がいた。この新しい会社にとって家族の支えがいかに大切か。切々と語ったという[1]。彼は変わりつつあった。それは私生活にも現れていた。 ジョブズはかつて自分の赤ん坊を頑なに認知せ