【第142話】霧 『隠蔽工作篇』はこれで完了になります。 (続編の製作時期は未定です。)
記者会見では、前回の全国報道の時の公報が誤っていた事が公表された。大手メディアは自治体の公報を信じて誤報を流したのだ。つまり、市は誤った公報を用いて事故検証の正当性を主張していた事になる。 市民病院の医療事故対応はまるで違法建築のようだ。発表内容は訂正につぐ訂正が繰り返され、検証に関する説明も歪で重層的でありデュパンやホームズの頭脳をもってしても理解が難しいものとなっている。 まして、背景にある人間関係や人物像は「脳外科医 笹田くん」みたいな漫画が無い限り・・・第三者が理解することは不可能なのだ。(だが、そんな漫画が描かれるわけがない。) 地元以外の記者たちは、会見の現場で、初めてこの『闇の深さ』に触れた。
新体制は外部委員会のメンバーを人選した。事故検証をするか否かも含め、全てを委員会に委ねるという流れに。結果が出るのは1年後だ。本来であれば、このままフェードアウトしてゆくはずだったのかもしれない。 ところが、新体制が発足して2カ月後、病院にとって悪夢のような出来事が起こった。 地元A新聞社が、個々の医療事故の詳細を報じたのだ。虚偽報告書と裏報告書が存在する事も、杜撰な事故対応も暴露された。 A新聞社は、世俗の権威に忖度する事なく取材内容を報じた。その姿は、現代のアンタッチャブルのようだった。 ※読者の中には、地元A社が誰かからのリークを記事にしたと思われている方がいらっしゃるようですが、そうではありません。(説明不足ですいません。)地元A社が裁判を丹念に追っていただけです。
前院長の立派さでもあり弱点でもあったのは、彼が一人で戦った事だ。 これからは一人一人が細胞となり集合体の一部となるのだ。何事も組織で立ち向かうのだ。 新体制が発足した。 最大の悲劇は、竹田くんの医療事故が社会的に大きな意味のある事件だと言う認識が彼らには欠いていた事である。
地元B新聞社は手術禁止中に起きた問題を、地元A新聞社は肺挫傷の事故を追及していた。包囲網は狭まっていた。 その場しのぎの方便では通用しないと判断したのだろうか? 最初の医療事故から2年半後、正規のメンバーを揃えて院内事故調査委員会が開催された。 その結果、手術禁止中の肺挫傷の事故を含む3件の医療事故が追加されることになった。 出席者の日常業務の合間に2度開かれたに過ぎない会合で、10件以上の医療事故の個別検証など物理的に不可能であろう。「原因究明や再発防止策、訴訟対策が議論の主題であり、過誤か事故かを検証したのではない」(事務局長談)過誤1件の結論は変わらなかった。出席者の1人は「ほぼ雑談でした。」と語っている。 病院の名誉のために言っておく。過去において・・・・いくつかの医療事故(被害者が職員や職員の家族であった事故)については、病院は迅速で手厚い対応をした事が院内では知られていた。
2本目は動脈に挿入したつもりだったが誤って再度静脈へ挿入してしまう。 事態を打開しようと思いっきり引き抜いたところ・・・ プチッ!「あれ?」管が引きちぎれて一部が体内に残ってしまった!! 手技が乱暴で、普通は起こり得ない事故だった。 この医療事故は『医療過誤』という扱いになっているそうだ。 この頃、竹田くんのプロフィールが病院HPからひっそりと消え、 数年後、契約更新されず他の病院へ移った。
地方で問題を起こした医師は最終的に都会に紛れ込む事が多い。とくに大病院では医師の数が多いため、少々変な先生がいても薄まり効果で目立たなくなる。 竹田くんは前の職場で上司のパワハラに悩まされた事を伝え、ここではカテーテルをやりたいと希望する。「僕の下で助手をやる事から始めれば良い。」との答えに、男の約束をゲットしたと喜ぶ竹田くん。 そこからは過去の繰り返しだが、今度は慎重にやった。だが助手は最初の月の一回のみ。赤池市の地元A社のネット記事が病院内で大問題になり周囲が竹田くんの主執刀に猛反対したのだ。 竹田くんは約束が違うと騒いだが、相手にされなかった。竹田くんが本当の才能を発揮するまでそれからさらに2カ月待たなければならなかった。
当初、この漫画は第一部のみで構成されていました。 第一部では、背景となる世界観は単純化され解像度が極めて低いです。登場人物も限られており、登場人物の各人が本来の登場人物としての行動以外に、架空世界の設定の解説係も担わされています。(医療の安全を崩壊させている竹田くん自身が市民病院の医療安全部門のレベルの低さを評価するシーンなどがその代表例です。)古荒先生も、本来の登場人物としての役割以外に、病院全体の集合意識として登場してセリフを吐いたり、竹田くん以外の全人類代表として竹田くんに対して不安を吐露するセリフを吐いたりします。 漫才で言うと、竹田くんがボケで、古荒先生がツッコミの係です。物語を進行する上での必要な、要所要所で竹田くんの行動にツッコミを入れて解説する役目を古荒先生というキャラクターが多く担っていたのです。 また、麻酔医やオペ看、放射線技師たちも登場はしないものの古荒先生と同じよう
作家ヘッセと心理学者ユングとの交流の様子を記した名著「ヘルメティック・サークル」。高名な心理学者が推薦文を寄せるこの本の作者ミゲール・セラノが、ネオ・ファシズムの極北に位置する秘教的ヒトラー主義(※)の主唱者であるなどと誰が見抜けるだろうか? この世の中に根っからの悪人はいないと信じていた古荒先生は遅すぎたとは言え、ようやく竹田くんが改心してくれる見込みがない事を悟った。 性善説を信条にすれば自然と良い方向に道が開けると思いたかったのだが・・・これ以上の被害者は出してはいけない! 竹田くんから送られてきたこれまでのメールをプリントアウトする。 そこには貝山さんの失敗箇所の執刀医の書き換えを熱望する内容や、階段転落事件の件も伝えていた。その内容を読めば、刑事告訴は手術解禁を迫るために竹田くんが仕組んだものだとわかるはずだ。 ※秘教的ヒトラー主義とは、ヒトラーがヒンドゥー教のヴィシュヌ神の化身
資格取得に失敗したとは言え、竹田くんはまだ2枚のカードが残っていた。 古荒先生への刑事告訴と院長に対するパワハラ訴訟である。 ところで、院長は、いかにして竹田君を迎え撃ったのか? 古荒先生の事情聴取の1カ月前・・・ 院長は、古荒先生が刑事告訴された事実を知る。 「竹田くんは常軌を逸している。」 (次はわたしに対するパワハラ訴訟か。来るなら来い!迎え撃ってやる!) 院長は最終決戦を覚悟した。 この時期、病院上層部は秘密の作戦会議を開いている。 そこで話し合われた事はまるで竹田くんに対する悪口合戦だった。 (犯罪者の容疑がかけられている古荒先生を助けるためには何ら活用されなかったこの上層部会議の内容は数年後に発覚する事となる。) 虚偽報告書の存在や、事故調査委員会を開けない負い目によって手術解禁を求める法的正当性は、竹田君の側にある。 それを崩すためには、竹田くんの医療過誤事案を独自にリストア
病院上層部は、不破弁護士の強い圧力にひるんだ。そして古荒と院沢を懲戒処分にすべきか検討(調査手続き)に入った。 院沢は、上層部が竹田くんの言いなりになるのを見て、そのあまりの理不尽さに激怒した。 ちゃんと仕事をやっている側が最悪の場合、解雇されるハメになり、サボったり危険行為をしている医師が野放しの意味がわからなかった。 他の看護師も、院沢と同じ目に合う事を恐れて、竹田くんとの会話をボイスレコーダーで録音する者まで現れた。 竹田くんに脅威を感じた医療関係者の中には、医療事故被害者家族に直接会って「私たちも証言する」と口約束して裁判するように促したり開示されていない情報を流す者まで現れた。 院沢は「院長が何かの弱みを握られているのではないか?」と疑った。だが虚偽報告書の事など知る由もなかった。いつの間にか、(周囲から見れば)院長は竹田くんの操り人形になっていた。
歴史とは皮肉なものだ。 第二次世界大戦のフランスで圧政と闘ったレジスタンスの英雄でも、アルジェの戦いでは、アラブ人を抑圧する側に回る。 映画「アルジェの戦い」でアラブ人によるレジスタンス運動の掃討作戦を指揮したマチュー中佐(元レジスタンスの英雄)がまさにそれである。 個人の人権・自由の守護者の闘士・不破も、その法律の刃を向けられた側から見れば、マチュー中佐のような暴君のように映った。 不破は、赤池市に対し竹田くんの手術解禁を求めると共に、古荒先生と院沢看護師の解雇を求める申し立てを行った。 病院上層部は不破の言いなりになって、勤勉な労働者である古荒と院沢の2人が解雇に値するか否かの調査を馬鹿正直に始めた。 この不条理な事態の発生によって、本来病院に対して従順であった普通の人々が、いやおうなく追い込まれ抵抗者(レジスタンス・抑圧と闘う戦士)として覚醒してゆく事となる。
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