劇の幕切れ間際、歌舞伎俳優・中村獅童さんは、5千人収容の客席通路を縦横に走り回った後、舞台に駆け上る直前で振り返り、一瞬の間をおいて叫んだ。 「帰ってきたぞ!」 獅童さんとバーチャルシンガー初音ミクが共演する「超歌舞伎」。千葉・幕張メッセで4月28、29日に上演された通算三つ目の演目「積思花顔競(つもるおもいはなのかおみせ)」終演時の一場面だ。がんの病床から帰還した花形俳優が、支えてくれたファンに向けた感謝の言葉だった。 超歌舞伎ファンから寄せられたあたたかい声に、闘病中、強く励まされたことを、獅童さんは折に触れ語ってきた。回復後初となる今年の超歌舞伎のキャッチコピーは「これは、愛に似た恩返し」。この言葉通り、舞台はまるで、ファンへの恩返しのようなつくりになっていた。 獅童さん演じる主役・安貞(やすさだ)は、非業の死を遂げるが、最後に精霊の力によってよみがえる。復活した安貞は会場2階席上手