Carroll, Noël (2019). Medium Specificity. In Noël Carroll, Laura T. Di Summa & Shawn Loht (eds.), The Palgrave Handbook of the Philosophy of Film and Motion Pictures. Springer. 29-47. ノエル・キャロルの有名な仕事を挙げるなら、そのひとつはメディウム・スペシフィシティ[Medium specificity]の批判だろう。「絵画とは/写真とは/映画とは/etc. こういう性質をそれ独自の本質とするものであり、これを活かした作品こそが当のメディアの作品としてよいものだ」といった主張は芸術史上なんどもなされてきた。キャロルはこれらを攻撃する。 わりと最近書かれた本論文でも、新旧のメディスペ論者が叩かれ、メディスペなし
概要本日(2021年1月3日)21時、新海誠監督作品『天気の子』が地上波初放送された。まだ視聴されていない向きのためにネタバレ抜きで書くと、あらすじは概ねこうだ。 「離島・神津島から東京都心へ家出してきた少年・帆高は、しかしすぐに生活に行き詰まり、離島からの連絡船で知り合った男・須賀の事務所に転がり込み、須賀のライター業の手伝いを始める。異常気象で連日雨が降り続く東京。母を亡くし、弟と二人だけで暮らす少女・陽菜と知り合った帆高は、陽菜の"祈ると100%晴れにできる"不思議な能力を知り、陽菜とその弟・凪と共に、"晴れ屋"を始める。連日の雨の東京の中ですぐに大人気となる晴れ屋。楽しい日々を過ごす帆高と陽菜たちだったが、しかし帆高に捜索願とある容疑がかけられていることから警察に追われることに。3人で異常気象下の東京を彷徨い、警察から逃れ、ようやくホテルに落ち着いた3人は楽しいひと時を過ごすが、し
『この世界の片隅に』で太極旗シーン以上に問題なのが、憲兵が出てくるエピソードだ。この話は以前にも一度取り上げているので内容が一部重複するが、改めて問題点を整理してみることにする。なお、このエピソードに関しては原作マンガとアニメ版に大きな違いはない。 『この世界の片隅に』で「憲兵」はどのように描かれたか このエピソードでは、呉の軍港に浮かぶ軍艦をスケッチしていたすずを間諜(スパイ)容疑者として捕まえた憲兵が、すずを連れて北條家に怒鳴り込んでくる。[1] 家族たちは玄関先で怒鳴り散らす憲兵の説教を神妙に聞いていたのだが、憲兵がいなくなると、次のシーンでは、よりによってすずなどをスパイ扱いした憲兵をバカにして爆笑する。[2] 現実にはあり得ない憲兵描写 しかし、こんなことは当時の現実としてはあり得ない。 まず、憲兵がスパイ容疑者を捕まえたら憲兵隊詰め所に連行して尋問するはずで、容疑者の自宅に引っ
Twitterで話題になっていた『来る』を見ました。作中に出てくる妖怪「ぼぎわん」に聞き覚えがあったんですが、原作小説のタイトルが『ぼぎわんが来る』だったんですね。 ざっくりと結論めいた感想を述べるなら、傑作とは言えないながらも要所要所に強い画面でぶちあがるシーンがあり、エンタメとしては十分な作品でした。私の中での位置づけは「ジェイソン・ステイサム主演の、脚本がいまいちなハリウッドアクション映画」と同じところです。全体の出来は大絶賛するほどじゃないけど、好きなシーンはたくさんあるみたいな。名優が大量出演なので『エクスペンダブルズ』っぽいかも。 ホラーだけどどうなの? 本作を観るうえでまず気になるのは、ホラーとしてどうなの?ってところでしょう。ホラー苦手だけど大丈夫?というのは私も気になっていたところであり、見始めは割と恐る恐るでした。 まずホラーといっても色々あると思うので、いかに簡単にま
素敵な邦題の例としてよく挙げられる「天使にラブ・ソングを…」。 この映画の原題は"Sister Act"と言います。 邦題とぜんぜん違いますが、このタイトルは一体どういう意味なのでしょうか。 英語の掲示板での議論を元に説明してみたいと思います。 "Sister Act" traditionally refers to a group of female singers who are all sisters. "sister act"はもともと、姉妹だけで構成された女性シンガーグループのことを指す言葉だそうです。例としてはアンドリューズ・シスターズやレノン・シスターズ、ボズウェル・シスターズが挙げられています。日本語に訳すなら「姉妹ユニット」とか、2人の場合は「姉妹デュオ」とか、そういう感じの意味ですね。ちなみに、男女混合の「姉弟(兄妹)ユニット」の場合は"brother and sist
卒論でテレビドラマや映画やマンガなどを卒論にとりあげる学生様がいて、私はそういうのは専門じゃないけど学部の教員メンバー構成の関係でそういうのも相手にしないとならんことがあるわけです。私がそういうの指導していいんだろうかとか、私が評価していいんだろうかとかいつも気になるんだけど、そういう先生は全国でけっこう多いはずだし、まあしょうがない。そういう場合はしょうがないので私もそれを何度も見る、ぐらいの努力はするわけです。 まあ学生様と卒論の草稿みながらディスカッションしていると気づくこともけっこうあって、それはそれでおもしろい。 今年は『ラ・ラ・ランド』で困りました。私この映画、前作『セッション』ほどではないけどひどすぎると思ってたし。でもまあ何度も見ながら学生様と解釈考えてたら、おもしろいアイディアを教えてもらいました。 この映画がひどいのは、「本物のジャズ」がテーマだって言いながら、ぜんぜん
今年のアカデミー賞6部門にノミネートされ話題をさらっている、映画『パラサイト 半地下の家族』(以下『パラサイト』)。中でも作品賞のノミネートはアジア映画初の快挙で、賞のゆくえに注目があつまっている。今回、ポン監督の来日に合わせて、10年以上親交がある是枝裕和監督との対談が実現。是枝監督の『万引き家族』とポン監督の『パラサイト』は、カンヌ映画祭でパルムドールを連続受賞したり、どちらも貧困層の家族をモチーフにしていたりと、なにかと共通点も多い。1時間に及んだ対談の内容を、全文掲載する。 是枝裕和監督)以前お会いしたのはトロント国際映画祭でしたね。 ポン・ジュノ監督)偶然お会いできて、是枝監督とうれしい気持ちでハグを交わしたのを思い出します。『パラサイト』は今年(2019年12月時点)、トロント国際映画祭、ニューヨーク映画祭と、『万引き家族』が歩んだコースを同じように歩んでいるなぁと思います。是
京アニ・藤田春香初監督作『ヴァイオレット・エヴァーガーデン外伝』レビュー。この作品はすべての働く人への「手紙」だ 『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 - 永遠と自動手記人形 -』を観終わって、涙と鼻水でダラダラになりながら思ったのは「仕事をちゃんとやろう」ということだった。今までもそのつもりだったけれど、もっともっと。そういうメッセージを僕は受け取った。 登場人物の一人、ホッジンズの言葉に、こんなものがある。 「してきたことは消せない。でも……君が自動手記人形としてやってきたことも、消えないんだよ」(クラウディア・ホッジンズ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』第9話) その通りなのである。人の仕事は、消えない。人は、誰かの仕事に生かされている。いい仕事に触れると、人は嬉しくなる。『ヴァイオレット外伝』の仕事に、妥協なんて一切ないことは、観れば分かる。少なくとも僕は、この作品に自分が肯
北村紗衣先生による映画評論『お砂糖とスパイスと爆発的な何か』が、書肆侃侃房さんより出版され、小規模な出版社から出たアカデミックな身分の著者(北村先生は、私自身は拝読したことがないのですがすでにシェイクスピアに関する単著も出されている、シェイクスピア研究者です)による本としては珍しいような売れ行きを示しているそうです。 この本が注目を浴びているのは、おそらくそれがフェミニズムの視点からさまざまな映画作品を批評するというものだからでしょう。多くのひとがそうした視点を、あるいはそうした視点から見たことを語る術を求めていたということでしょう。 この記事ではそんな話題の本『お砂糖とスパイスと爆発的な何か』に対し、否定的な話をしたいと思っています。 いくつか、先に断っておきたいことがあります。 まず、この記事を書いている私は何者なのか。これに関しては、多くを語ることはできません。ひとつだけ言えるのは、
宮尾大輔[笹川慶子・溝渕久美子訳] (2019年6月15日刊行,名古屋大学出版会,名古屋, vi+324+41 pp., 本体価格5,400円, ISBN:9784815809515 → 版元ページ) 「照明(lighting)」という観点から日本映画の歴史をたどる本.また,名古屋大学出版会かっ.原書:Daisuke Miyao 2013. The Aesthetics of Shadow: Lighting in Japanese Cinema. Duke University Press. 【目次】 凡例 vi 序章 影の美学とは何か 1第1章 照明と資本主義 —— 松竹とハリウッド 15 ハリウッドから来た男 15 蒲田調とパラマウント調 —— ラスキー・ライティングからスリーポイント・ライティングへ 25 『情の光』 34 見やすさと表現の豊かさ —— 新派とハリウッド 37 「一
公開されるや否や、「俺たちの見たかったゴジラが!」みたいな感想が次々と流れてきた本作品だが、自分も見終わったときにはオタクスマイル全開でしばらくの間ニヤニヤが止まらなかったw 正直、自分は子供の頃に平成ゴジラ(vsシリーズ)を見ていた程度で、昭和もミレニアムも未見だし、全然詳しくないんだけども、それでもやはり興奮しますね、これはw ちなみに、前作は見てるが、キングコングは見てない。 『ゴジラ』 - logical cypher scape2 ゴジラとムートーがサンフランシスコで激闘してから5年 世間は、対怪獣機関であるモナークへの懐疑を深めていたが、一方で、モナークは世界各地に怪獣が眠っているのを見つけ、監視・隔離・研究を進めていた。 ある日、中国雲南省で眠りについていたモスラの卵がふ化する。そこに環境テロリスト集団が現れ、モナークの研究者であるエマ、エマの娘であるマディソンを誘拐していく
昨年の12月に入管法改正があったからなのか、日本に住む「移民」を取り上げる記事や番組が増えたように思う。 「こうやって取り上げてくれるのはなにかが変わりつつあるからなのかな?」と思いながら、こうした記事や番組を読んだり、観たりしていると「とうとう日本にも移民がやってきた」みたく、さも、移民が日本にとって新しい存在であるような論調で取り上げられていることに気づく。 そんな論調に触れ、寂しい気持ちになりながら、私はあの映画のことを思い出していた。 同じ世代の在日のひとたちと映画の話をしていると窪塚洋介さん主演の『GO』に「リアルさ」を感じたというひとが多く、私はいつもその話を興味深く聴いている。 なぜかといえば、在日がテーマになっている映画を観ていると「いや、そこはそう言わないし、在日だったらここの所作はこうするよな。」と細かいディティールが気になって、ついつい演出スタッフのようなことをスクリ
劇場版アニメ「リズと青い鳥」の山田尚子監督が14日、カルッツかわさき(川崎市川崎区)で開かれた「第73回毎日映画コンクール」(毎日新聞社、スポーツニッポン新聞社主催)の表彰式に出席。同作が大藤信郎賞を受賞したことについて「大藤信郎賞という歴史のある賞を『リズと青い鳥』がいただけて感無量です。『リズと青い鳥』はアニメとして少女たちの物理的な動きを丹念に描き続けて、たくさんのスタッフと『ああだ、こうだ』と言い合う、本当に興奮する現場でした」と語った。 「リズと青い鳥」は、アニメ「響け!ユーフォニアム」に登場する女子高生の鎧塚みぞれ、傘木希美を中心とした物語。 「毎日映画コンクール」は、日本で最も長い歴史を持つ映画コンクールの一つ。日本映画大賞は「万引き家族」、日本映画優秀賞は「菊とギロチン」、監督賞は「カメラを止めるな!」の上田慎一郎監督、女優助演賞は故・樹木希林さんが受賞した。表彰式には、男
南西諸島を中心にいくつかの島々に残る風習「洗骨」(※)を描いた映画が公開中だ。監督・脚本は照屋年之(ガレッジセール・ゴリ)監督。小さな島の民俗文化を描いた本作がどのように生まれたのか、照屋監督と主演の奥田瑛二さんに作品誕生の背景について伺いました。(インタビュー撮影・垂見健吾) (※)風葬や土葬を経た遺骨を洗い清めて改葬する風習。東南アジアなど世界各地で見られ、日本の離島地域にも残る。 映画『洗骨』あらすじ 洗骨───。粟国島の西側に位置する「あの世」に風葬された死者は、肉がなくなり、骨だけになった頃に、縁深き者たちの手により骨をきれいに洗ってもらうことで、晴れて「この世」と別れを告げることになる。 沖縄の離島、粟国島・粟国村に住む新城家。長男の新城剛(筒井道隆)は、母・恵美子(筒井真理子)の“洗骨”のために、4 年ぶりに故郷・粟国島に戻ってきた。実家には、剛の父・信綱(奥田瑛二)がひとり
上映後に行われたトークショーには、山田尚子監督と本作の音楽を担当した牛尾憲輔、司会として音楽プロデューサーの斎藤滋が登壇。「僕たちの打ち合わせは京都アニメーションの中で“概念打ちあわせ”って呼ばれている」「同席したスタッフがメモを取るのをやめるんですよ(笑)」と2人が話す通り、息が合った様子の2人はたびたび脱線するトークで会場を笑わせつつも、本作の音楽のこだわりについて、実際の譜面やシーン映像も交えながら具体的に語った。 山田との打ち合わせで「物音の視座」というコンセプトを設定した牛尾は、舞台のモデルとなった高校で、実際に椅子やロッカーを叩いたり、窓やビーカーを指でこするなどして録音した物音を劇伴に使用したという。録音現場には山田もロケハンとして同行したが、録音中に山田がメトロノームの音に爆笑してしまったとのこと。「すごい小っちゃい音録ってるのに、すっげえうるせえなって(笑)」と牛尾が明か
4月21日から公開中の劇場アニメ『リズと青い鳥』。 人気作『響け!ユーフォニアム』の登場キャラクターである二人の高校生、鎧塚みぞれ(CV:種崎敦美 ※崎は立つ崎)と傘木希美(CV:東山奈央)の繊細で捉えどころのない思いや関係を描いた作品で、数々の賞を受賞した映画『聲の形』の京都アニメーション(監督:山田尚子)による最新作ということでも大きな注目を集めている。 4月21日から全国で上映中の『リズと青い鳥』。テレビシリーズ2クール分と劇場作品2本が作られている『響け!ユーフォニアム』シリーズの最新作だが、シリーズ未見の人でも十分に楽しめる作品となっている エキレビ!の山田尚子監督インタビュー後編では、クライマックスのネタバレ要素にも言及しながら、約90分の本編に詰め込まれたみぞれや希美、そして、監督の思いを紐解いていく。 (前編はこちら) 私個人としては、「リズ、一旦、話し合おう?」と思う ─
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