視覚芸術たる絵画と聴覚芸術たる音楽。両者は水と油のようなものだが、だからこそ意欲的な芸術家はその垣根を超えようと挑戦するのだろう。 名画にインスパイアされて生まれた名曲といえば、ラヴェルのピアノ曲『亡き王女のためのパヴァーヌ』(ベラスケス作『王女マルガリータの肖像』から)、ラフマニノフの交響詩『死の島』(ベックリン作『死の島』から)、ムソルグスキーの組曲『展覧会の絵』(ハルトマンの個展から)など、成功例はいくつかある。 ところが名曲を絵画化した有名な例は、ベートーヴェンの第九交響曲を独自解釈したクリムトの壁画『ベートーヴェン・フリーズ』くらいではないか。目から耳より、耳から目への変換の方がハードルが高いからなのか、それとも有名な楽曲を絵のテーマにする意欲を画家が持ち得ないだけなのか。 おそらく後者であろう。なぜなら特定の楽曲ではなく、観る者それぞれがイメージする音楽を一枚の絵画から響かせよ