著:井上武史(九州大学大学院准教授) 憲法は社会を運営するためのインフラであると考えられる。多数の人々が社会を構成して共同生活をするには、共通のルール(法律)と経費(予算)が不可欠であろう。それらを誰が、どのように決めるのかを定めるのが憲法である。憲法では、それらは国会が決めるとされているが、その国会をさらに衆議院と参議院とに分けることで、多様な民意が反映されるような工夫がなされている。 また、個人の重要な権利は多数決からも守られなければならない。このため憲法は、思想・良心の自由や表現の自由などの基本的人権を掲げて、それを憲法の番人である最高裁判所に守らせる仕組みを定めている。 これに対して最近では、憲法とはもっぱら「国家権力を制限するもの」「国家権力を縛るもの」であるという理解が強調される。しかし、このような憲法観は一面的であり、憲法が本来果たすべき役割を十分に捉えていない。国家権力を制