タグ

ブックマーク / jtsutsui.hatenablog.com (13)

  • 社会保障の「気前良さ」は政府支出の大きさでは測れない - 社会学者の研究メモ

    政府は増大する社会保障支出を背景に、いよいよ増税に向けた調整を格化させている。他方でアカデミズムにおける社会保障論(福祉国家論)をみると、日は基的に社会保障に関して低い水準にあるということがたいていの議論の出発点となっており、現在の政府の政策展開とアカデミズムのあいだには奇妙なズレがあることが分かる。 このズレはいかにして生じているのだろうか? ある国の社会保障の手厚さを測る指標としてしばしば社会保障支出のGDP比が用いられる。また、日政府はしばしば国民負担率という指標を用いる。しかし、たとえば年金支出は高齢化率にしたがって上昇するので、「年金支出の規模が大きいから社会保障が充実している」ということにはならない。失業率と失業手当の関係も同じで、失業率が高ければ失業手当支出も増えるが、かといって雇用関連支出が「充実している」というわけではない。 図は2007年のOECD諸国の社会支出

    社会保障の「気前良さ」は政府支出の大きさでは測れない - 社会学者の研究メモ
  • 世代間不公平 - 社会学者の研究メモ

    阪大の大竹先生のブロク経由で購入。改めてやっぱり陰な気分になるなあ。 だまされないための年金・医療・介護入門―社会保障改革の正しい見方・考え方 作者: 鈴木亘出版社/メーカー: 東洋経済新報社発売日: 2009/01メディア: 単行購入: 6人 クリック: 72回この商品を含むブログ (38件) を見る 第1章 社会保障制度の「危機」はなぜ起きるのか 社会保障制度の危機の質的な原因は、不況でも無駄遣いでもなく少子高齢化 これから迎える団塊世代の退職は危機的状況の入り口でしかない。むしろそのあと、2070年ころにはおよそ労働者1人で高齢者一人を支えることになる。 少子化対策では社会保障制度の危機を克服できない。少子化対策が一番うまくいった推計でも、現役負担の比率が少しだけ緩和されるに過ぎない。 世代別社会保障の損得計算(給付-支払い、税を介した所得移転を含まず)の結果は以下の通り。40

    世代間不公平 - 社会学者の研究メモ
    lotus3000
    lotus3000 2011/08/19
  • 「排外主義」についての文献とデータ - 社会学者の研究メモ

    に帰国して約3週間、遅ればせながらシノドス・ジャーナル(および朝日web ronza)に掲載していただいた記事の文献情報を掲載する。 排外主義の規定要因についての研究にはそこそこの蓄積があるが、国際比較可能なデータを使用した経験的分析の論文のみごく一部紹介する。 Quillian (1995)はEurobarometerからヨーロッパ12ヶ国データを使って、移民は雇用に対する脅威だという考えが反移民的態度に結びつく傾向を指摘した。 Scheepers, Gijsberts, and Coenders (2002)は合法移民に市民権を与えることに対して、社会経済的に不利な立場にある人々が否定的である傾向を見いだした。 おそらく最も包括的な研究はSemyonov, Raijman, and Gorodzeisky (2006)によるもので、国別クロスセクションではなく国別パネルデータを利用

    「排外主義」についての文献とデータ - 社会学者の研究メモ
  • 経済学と社会学 - 社会学者の研究メモ

    前回のエントリは自分で読んでも不親切なような気がしますので、ちょっと補足しておきます。まず、経済学のモデルが規範的かどうか(効率性という価値基準からの政策決定のモデルをもっぱら意図しているか)ですが、もちろん違うという意見もあるかと思います。最近話題になったレヴィット(S.Levitt)の"Freakonomics"なんか、最初から「経済学にはこんな説明力があるんだよ」ということを示そうとしています。(中絶と犯罪率の関係なんて、すごく社会学的な研究関心です。)新制度派の一人で先にノーベル経済学賞をとっているノースD.Northも、規範的モデルではなく歴史的説明を重んじています。とはいいつつも、他の学問に比べれば格段に規範的だし、「その研究にはどういう政策的含意があるの?」と聞かれる頻度も他の学問よりは多いでしょう。 Freakonomics: A Rogue Economist Explo

    経済学と社会学 - 社会学者の研究メモ
  • 社会階層と社会的ネットワークの多様性 - 社会学者の研究メモ

    (注意:論文内容に関する判断は、ぜひ実際の論文をお読みになった上でお願いします。) 大和礼子, 2000, "社会階層と社会的ネットワーク"再考, 『社会学評論』51(2), 235-250. 家族と社会的ネットワークに興味がある研究者なら読むべき重要な論文だと思った。(うかつにも見落としていたが、院生が教えてくれた。)「階層とネットワーク」といえば、最近はN.リンらのグループによるソーシャル・キャピタルの階層格差についての調査研究が盛んになされてきたが、この論文ではむしろ「階層が高い方が社会的ネットワークが多様である」という既存研究を出発点として、ジェンダーと社会的地位(主に学歴)の二つの階層の観点から個人の持つネットワークの違いを実証している。 データは以下のとおり。兵庫県内の1930〜59年生まれの有配偶女性(とその配偶者)の1534ケースを層化二段抽出、うち638ケースを回収(41

    社会階層と社会的ネットワークの多様性 - 社会学者の研究メモ
    lotus3000
    lotus3000 2010/08/13
  • リベラリズム、コミュニタリアニズムと社会学 - 社会学者の研究メモ

    先日ディスカッサントとして招かれた社会学史学会で、コミュニタリアニズムについて話をする機会があった。おさらいがてら読んでみたのが、菊池『日を甦らせる政治思想:現代コミュニタリアニズム入門 』だったのだが...。私も、著者自身が「日ではコミュニタリアニズムは誤解されている」と述べるとおりであると思うのだが、そうであればなお、批判者を説得できる書き方をした方がよかったのでは、と思う。私自身はどちらかといえばリベラリズムに共感しているが、残念なことにこのによってはあまり説得されなかった。自分が主張したい議論について書くのなら、その議論に真っ向から反対する論者を説得するつもりで行うのが理想である。たとえば市場原理を批判したいのなら、相手はミクロ経済学者である。 日を甦らせる政治思想~現代コミュニタリアニズム入門 (講談社現代新書) 作者: 菊池理夫出版社/メーカー: 講談社発売日: 200

    リベラリズム、コミュニタリアニズムと社会学 - 社会学者の研究メモ
    lotus3000
    lotus3000 2010/07/23
  • 外国語での研究報告に関する雑感 - 社会学者の研究メモ

    今回は研究内容から離れてエッセイふうなことです。 海外の学会やシンポジウムに行くたびに、いろんな研究者の方から「なんで日人研究者は海外に出ていって報告しないんだ」と聞かれているような気がします。特に日出身で海外の大学院を経験されている方、同じアジア出身の研究者の方などがそのように発言されているのをよく聞きます。 聞き様によってはオフェンシブに聞こえなくもないですが、まあ事実でもあり、あちら方としては、実際に報告しにきている私はその範疇に入らないと思ってそういう話題をするのだと思います。ともあれその後は判で押したようなやりとり(たいていは「日英語苦手説」と「国内で外国語報告が評価されない説」)が続くのですが、そんなことを言い続けていてもしょうがないような気もするので、最近は別のことを考えています。 というのは、やっぱり分野に寄るばらつきも大きいと思うからです。理系や、社会科学でも経済

    外国語での研究報告に関する雑感 - 社会学者の研究メモ
    lotus3000
    lotus3000 2010/05/03
  • 政治の失敗の構造 - 社会学者の研究メモ

    社会学先日のエントリでとりとめもない終わり方をしたので、今回はフォローします。前回と違ってちょっとまじめに。 市場の失敗→政府の失敗→マスコミの失敗...高校の教科書までは、政府が存在するのは「国民の福祉のため」と書いてあると思います。これに対して、経済学的には国民の福祉を達成するのは基的には市場であり、政府が登場するのは市場がときどき失敗するから、ということになります。そして、経済学の一分野(公共選択論)では、この続きを主張します。つまり政府も失敗する。公共選択論の創始者のブキャナンによれば、民主制のもとでは財政における支出過剰への圧力が高まります(財政赤字へのバイアス)。では政府の失敗に対処するのは...?経済学の世界では、政府と市場のあいだを行ったり来たりします。政府が失敗するなら市場重視、市場が失敗するなら政府重視...というかんじです。ここではこの往復からちょっと抜け出してみま

  • 政治の世界のトレードオフ - 社会学者の研究メモ

    日記・コラム民主党の小沢幹事長に関する話題は「検察の恣意的横暴」か「小沢型政治批判」かみたいな構図になっていて、普通の人は「一体どっちの味方したらいいの?」みたいな「判断他人任せ」状態じゃないでしょうか。不況や温暖化の場合もそうだけど、学者レベルで意見対立しているような場合、誠実な素人であれば判断保留せざるをえません。さて。「検察vs小沢」というこの対立点からちょこっと離れてみると、現在の国民の漠然とした雰囲気として、「民主党、お前もか」といった諦念の気持ちがあるように思えます。これをもうちょっと掘り下げると、民主党には以下の二点が期待されていたんじゃないでしょうか(「そもそも期待するのがアホ」みたいな意見とは独立に)。社民党のようなイデオロギー政治ではない(中道・現実路線である)自民党のような利益誘導政治ではない(カネから自由である)これって、日に限らずどの国でも国民が政治家に期待する

    lotus3000
    lotus3000 2010/01/19
    sivadさんあたりが考える政治とは、このトレードオフをなんとかすることなのかもしれん。あとイデオロギー的なものの付き合い方をどう学ぶかという問題も残ってそうだ。
  • 既得権の社会学 - 社会学者の研究メモ

    再び教科書のための頭の整理のメモです。 最近は社会学でも「既得権」という考え方に反応する人が増えているような気がします。これも先日のエントリでちょっと触れた「社会学者の構造改革派バイアス」の表れにみえなくもないです。が、社会学を救うというわけじゃないのですが、今回はちょっと別の視点から論じてみます。 ここでは、レントについて、社会学的な概念を使うとどういうことが言えるのか、ということを検討します。(その他の面での既得権の話(機会不均等の話など)---こちらの方が流の社会学には親和的なんでしょうが---はしていません。) まずはおさらい。レントとは、簡単に言えば市場価格から乖離して上乗せされた価格の部分のことです。レントによって、その事業への新規参入が阻止されたり、あるいは逆に退出をコントロールしたりします(準レント)。で、レント・シーキングとは、レントを獲得するための政治的・社会的活動で

    既得権の社会学 - 社会学者の研究メモ
  • なぜ経済学には権力という概念がないか - 社会学者の研究メモ

    (今回の議論はたぶん、かなり穴があります。ご承知おきを。...ってブログの記事はそもそもそういうものか。) 経済学に権力という概念が全くないわけではないと思うのですが、社会学ほどは目立たない概念でしょう。なぜでしょうか。 このことは、権力の定義を考えると自ずと見えてくるのではないでしょうか。まず手始めにWikipediaをみてみましょう。 権力(けんりょく、ドイツ語 Macht、英語 power)は、何らかの物理的強制力の保有という裏づけをもって、他者をその意に反してでも服従させるという、支配のための力のことである。権力者とは、そうした権力を独占的に、あるいは他に優越して保有し、それを行使する可能性をもつ者を言う。(権力:Wikipedia) ウェーバー的な定義ですが、日常的定義(人々が権力という言葉でどういった状態を指しているか)としてはこんなもんで十分なんじゃないでしょうか(フーコーの

    なぜ経済学には権力という概念がないか - 社会学者の研究メモ
    lotus3000
    lotus3000 2009/11/29
    そこらへんの考察はたしか、荒川 章義の「思想史のなかの近代経済学」(中公新書)で書かれた記憶が。
  • 『アニマルスピリット』 - 社会学者の研究メモ

    家の近くのオリオン書房に平積みされていたので、買ってとりあえず読んだ。 アニマルスピリット 作者: ジョージ・A・アカロフ,ロバート・シラー,山形浩生出版社/メーカー: 東洋経済新報社発売日: 2009/05/29メディア: 単行購入: 11人 クリック: 154回この商品を含むブログ (66件) を見る 訳文は読みやすかった。おかげで1日で読めた。 これまでの経済学が見落としてきた5つの「アニマルスピリット」、つまり安心(confidence)、公平(fairness)、腐敗と背信、貨幣錯覚、物語を考慮することで、経済現象がよりよく説明できる、という主張。バックにあるのは、行動経済学と社会心理学。社会学の仕事も参照されている。ブラウの交換理論が「公平さ」の説明の際に登場する。また、黒人の「物語」の説明として、エスノグラフィーの名作、『タリーズコーナー』が参照されている。 タリーズコーナ

    『アニマルスピリット』 - 社会学者の研究メモ
  • 面白い論文の書き方(その一) - 社会学者の研究メモ

    今回も教科書ネタ。 学生の論文には、読んでいて面白いものと、苦痛なもの指導しがいのあるものがあります。後者のような論文を書く学生は、論文についてこう考えていることが多いです。 興味のあることを見つけて、それについて文献を読み、それをまとめて、最後に自分の意見を書く。 こういう指導をされている先生方は意外に多いのではないかと思います(自分も昔はそうでした)。指導がラクだし。しかしこれは論文を書くときの方針にはなりませんし、してはダメです。 論文とは「研究成果」のアウトプットの1つです。少なくとも社会学における研究とは、解かれていない謎や決着のついていない問いを自分で見つけ出し、データ等の証拠を使ってそれに答えることです。(それ以外の論文もありますが、まず基を抑えないとダメです。)上記のダメ方針は、研究と単なる勉強を取り違えているのです。 研究の手順は標準的に教えられているもので十分です。

    面白い論文の書き方(その一) - 社会学者の研究メモ
  • 1