明和政子・京都大教授(寄稿) 日本に住む私たちにとって、サルは古くから身近な存在でした。桃太郎、猿蟹(さるかに)合戦、サル芝居、サル真似(まね)。サルが登場する昔話や民話の数の多さがそれを物語っています。いわゆる先進諸国のなかで、ヒトとサルがこれほど近接した空間で共生してきたのは日本だけです。 そうした背景もあってか、日本は独自の感性で霊長類学を開拓してきました。おもしろいことに、西欧の研究者は個々のサルに番号を割り振って彼らの行動を記録していました。しかし、日本の研究者はサルに「ウメ」「モモ」といった名前をつけていました。そうすると、サルのふるまいがまるでヒトを見ているかのように具体的にみえてきます。日本の霊長類研究は、サルにも体系だった社会構造や文化らしきものがあることを発見してきました。日本人特有のサル観なくして、霊長類学の発展はなかったでしょう。 サルはヒトの本性の起源を映し出す鏡