相模原の惨劇から3週間、大量殺人事件はこれまで幾度となく繰り返されてきた。「事件は社会を映す鏡」という。いくつかの事件を振り返りながら、浮かび上がってくる時代と事件の背景を探り、大量殺人事件の系譜を考察してみる。 南洋上の孤島に、1人の若い女性と32人の男、計33人の日本人が取り残され、共同生活を始める。はじめは食べること、生き残ることに誰もが必死だった。やがて男たちは、欲望を剥き出しにして唯一の女を奪い合い、図らずも激しい殺し合いが始まる。命を落とした男は13人。わずか70年ほど前、想像を絶する悲劇が現実に起こった――。 太平洋戦争に翻弄されたが故の大量殺人事件「アナタハンの女王事件」が起きたのは、1945(昭和20)年から1950(昭和25)年にかけてだった。 1944(昭和19)年6月中旬。物資輸送に従事するため、海軍に徴用された漁船3隻が横浜港から太平洋上のトラック諸島を目指してい