昭和45年10月6日、水戸地裁土浦支部。無期懲役判決を言い渡されたときのことを、杉山卓男さん(63)は全く覚えていない。 「主文は後回しで(窃盗罪などに続いて)第三の事実として強盗殺人罪が述べられた。まさかと思った。そこで頭は真っ白になった」 一方、桜井昌司さん(63)は今もそのときを鮮明に覚えている。「裁判長がだんだんと早口になってきて、ああダメかもしれないと思った」。アリバイがあるし、自白は利益誘導によるもの。2人は法廷でそう主張したが、「信用に値しない」として退けられた。 「布川事件」。42年8月30日、茨城県利根町布川の大工、玉村象天(しょうてん)さん=当時(62)=が自宅で殺害されているのが発見され、現金が奪われていた。 この事件で2人は強盗殺人容疑で逮捕された。 指紋や毛髪といった明確な物証はなく、犯行と2人を結びつける直接の証拠は自白証言だけ。桜井さんは「(自白は)プレッシャ