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ブックマーク / user.keio.ac.jp/~rhotta (120)

  • #5414. ''dungeon'' の文化史と語源

    RPG 好きには「ダンジョン」 (dungeon) の響きはたまらないのではないでしょうか.その意味は「地下牢」?「洞窟」?「塔」? なぜ RPG にはダンジョンが付きものなの? ゴシック・ロマンスとの関係は? このような問いに答えてくれる文化史・文学史の記事です. 記事でも言及されていますが,英単語 dungeon は古フランス語 donjon を借用したものです(1300年頃).古フランス語での原義は「主君の塔」ほどでしたが,それが後に牢獄として利用された背景から,「牢獄」,とりわけ「地下牢」の意味を発達させました.さらには RPG 的な「未知なる危険の潜む空間」(上記記事を参照)という語義にまで発展してきました.文化史的に味わうべき意味変化 (semantic_change) の好例ですね. さて,古フランス語 donjon は,さらに遡ると中世ラテン語の dominiōnem に行

  • #5076. キリスト教の普及と巻子本から冊子本へ --- 高宮利行(著)『西洋書物史への扉』より

    この2月に髙宮利行(著)『西洋書物史への扉』が岩波新書より出版されています.西洋における歴史が,多くの写真やエピソードとともにコンパクトにまとめられています.参考文献も整理されており,次の一冊に進むのに有用です. 歴史には数々の論点がありますが,巻子(かんすぼん;volume)から冊子 (codex) へとの形態がシフトした問題について「冊子の登場」と題する章で紹介されています. 巻子は冊子に比べて検索しにくかったということがしばしば言われます.シフトの背景にはそのような実用的な要因もあったことは確かと思われますが,キリスト教の普及と関係する社会的な要因もあったと考えられています. 髙宮 (pp. 45--45) では,紀元1--5世紀に作られた現存するギリシア古典作品のについて,巻子と冊子の比率を比べた調査が紹介されています.それによると,1世紀には冊子はほと

    ja_bra_af_cu
    ja_bra_af_cu 2023/03/21
    髙宮利行『西洋書物史への扉』より “冊子写本は,巻子本を用いていたユダヤ教や周辺に存在していた異教に対して,原始キリスト教がユダヤ教から分派し,成立したことを示す象徴的な形態として,選ばれた”
  • #4461. なぜ <th> は1子音に対応するのに2文字なの?

    学生から寄せられた,素晴らしい素朴な疑問.なぜ <th> は2文字なのに1つの子音に対応しているのか,なぜ専用の新しい1文字を用意しなかったのか,という問いです. 英語の <th> という綴字,およびそれに対応する発音 /θ, ð/ は,きわめて高頻度で現われます.英語で最高頻度の語である定冠詞 the をはじめ,they, their, that, then, though など,"th-sound" はなかなか厄介な発音ながらも英語のコアを構成する単語によく現われます.英語学習者にとって,攻略しないわけにはいかない綴字であり発音なわけです.("th-sound" については,th の各記事で取り上げてきたので,そちらをご覧ください.) <th> が表わす無声の /θ/ にせよ有声の /ð/ にせよ,発音としてはあくまで1子音に対応しているわけなので,綴字としても1文字が割り当てられて然

    ja_bra_af_cu
    ja_bra_af_cu 2023/01/08
    “同じ中英語期にラテン語やフランス語の正書法の影響により,英語の同子音に対して2文字を費やす <th> の綴字も台頭〔……〕中英語期の末期には,印刷術の発明と普及に際して <th> が優先的に選ばれた”
  • #4735. なぜ Webster は綴字改革をなし得たか?

    一般的にいって綴字改革 (spelling_reform) は成功しないものである.実際,英語歴史で見る限り成功例はほとんどない.その理由については「#606. 英語の綴字改革が失敗する理由」 ([2010-12-24-1]),「#2087. 綴字改革への心理的抵抗」 ([2015-01-13-1]),「#634. 近年の綴字改革論争 (1)」 ([2011-01-21-1]),「#635. 近年の綴字改革論争 (2)」 ([2011-01-22-1]) などで触れてきた. 英語史において綴字改革がそれなりに成功したとみなすことのできるほぼ唯一の事例が,Noah Webster によるアメリカ英語における綴字改革である(改革の対象となった単語例は「#3087. Noah Webster」 ([2017-10-09-1]) を参照). では,なぜ Webster の綴字改革は類い希なる成功

  • #4640. ''of''/「の」をもつ名詞的繋辞構文の出現

    英語の an angel of a girl 「天使のような少女」のような of を用いた構文について「#2461. an angel of a girl (1)」 ([2016-01-22-1]) や「#2462. an angel of a girl (2)」 ([2016-01-23-1]) で取り上げたことがあるが,日語にも統語意味論的に類例があるという見解に出会った.小川 (83) によると,日語と英語の様々なソースから集めた例として次のものが挙げられている. (1) a. 女性の運転手(=女性である運転手;cf. 女性運転手) b. 運転手の女性(=運転手である女性;cf. *運転手女性) (2) a. a village like a jewel b. a jewel *(of) a village (3) a. あの山は高さ(が)3000メートルだ/である。 b. あの

  • #4621. モーラ --- 日本語からの一般音韻論への貢献

    文字論研究史を概説している Daniels (63) に,日語の仮名(平仮名と片仮名)がモーラに基づく文字であることが言及されている.この事実そのものは日語学では当然視されており目新しいことでも何でもないが,音節 (syllable) ではなくモーラ (mora) という音韻論的単位が言語学に持ち込まれた契機が,ほかならぬ日語研究にあったということを初めて知った.日語の仮名表記や音韻論を理解・説明するのにモーラという概念は是非とも必要だが,否,まさにそのために導入された概念だったのだ. The term 'mora' was introduced into modern linguistics by McCawley (1968) to render a term (equivalent to 'letter') for the characters in the two Japa

  • #4470. アジア・アフリカ系の英語にみられるリズムと強勢の傾向

    前 次 hellog英語史ブログ #4470. アジア・アフリカ系の英語にみられるリズムと強勢の傾向[prosody][phonology][stress][syllable][rhythm][world_englishes][new_englishes][variety][esl][diatone] 現代世界には様々な英語変種があり,ひっくるめて World Englishes や New Englishes と呼ばれることが多い.アジアやアフリカには歴史的な経緯から ESL (English as a Second Language) 変種が多いが,多くのアジア・アフリカ系変種に共通して見られる韻律上の特徴がいくつか指摘されている.ここでは2点を挙げよう.1つは "syllable-timing" と呼ばれるリズム (rhythm) の性質,もう1つは語の強勢 (stress) の位

  • #4454. 英語とイングランドはヴァイキングに2度襲われた

    英語史概説の講義などの経験から,英語史上,混同や誤解が生じやすい事項というものがいくつかある.ヴァイキングとノルマン人の関係も,そのうちの1つである.今回は,この分かりにくさを解消したい.まず,英語史上重要な2つの事件について基事項を整理する. (1) 英語史では,8世紀後半から11世紀にかけて北欧出身のヴァイキング (Vikings) あるいはノルド人 (the Norse) がイングランド(とりわけ北部)に侵攻・定住したという出来事について,必須の話題として取り上げられる.このときヴァイキングの母語である古ノルド語 (Old Norse) が英語に多大な影響を及ぼしたからだ. (2) 一方,その直後の時期に当たる1066年に,有名なノルマン征服 (Norman Conquest) が起こった.イギリス海峡の南側,フランス北部のノルマンディ (Normandy) に居住していたノルマン

  • #4429. 序数詞 ''third'' の ''d'' と ''fourth'' の ''th'' の関係

    前 次 hellog英語史ブログ #4429. 序数詞 third の d と fourth の th の関係[indo-european][germanic][numeral][grimms_law][verners_law][suffix][metathesis] 6月2日より,音声配信プラットフォーム Voicy にて「英語の語源が身につくラジオ」と題するチャンネルをオープンしています.日々10分弱の英語史の話題を配信していますが,昨日は「third は three + the の変形なので準規則的」という話題を取り上げました(cf. 「#92. third の音位転換はいつ起こったか」 ([2009-07-28-1]),「#93. third の音位転換はいつ起こったか (2)」 ([2009-07-29-1]),「#60. 音位転換 ( metathesis )」 ([2009

  • #4400. 「犬猫」と ''cats and dogs'' の順序問題

    前 次 hellog英語史ブログ #4400. 「犬」と cats and dogs の順序問題[sound_symbolism][phonaesthesia][onomatopoeia][idiom][binomial][prosody][alliteration][phonetics][vowel][khelf_hel_intro_2021][clmet][coca][coha][bnc][sobokunagimon] 目下開催中の「英語史導入企画2021」より今日紹介するコンテンツは,学部生よりアップされた「犬猿ならぬ犬の仲!?」です.日語ではひどく仲の悪いことを「犬猿の仲」と表現し,決して「犬の仲」とは言わないわけですが,英語では予想通り(?) cats and dogs だという興味深い話題です.They fight like cats and dogs. のように用い

    ja_bra_af_cu
    ja_bra_af_cu 2021/05/14
    “音節の "openness and sonorousness" の低いものが先に来て,高いものが後にくるという順序”
  • #4387. なぜ名詞(句)が副詞的に用いられることがあるのですか?

    前 次 hellog英語史ブログ #4387. なぜ名詞(句)が副詞的に用いられることがあるのですか?[sobokunagimon][preposition][adverbial_accusative][adverbial_genitive][adverb][case][dative][japanese][khelf_hel_intro_2021] 次の各文の赤字の部分をみてください.いずれもその形態だけみれば名詞(句)ですが,文中での働き(統語)をみれば副詞として機能しています.前置詞 (preposition) がついていれば分かりやすい気もしますが,ついていません.形式は名詞(句)なのに機能は副詞というのは何かい違っているように思えますが,このような例は英語では日常茶飯で枚挙にいとまがありません. ・ I got up at five this morning. ・ Every

    ja_bra_af_cu
    ja_bra_af_cu 2021/05/02
    “一方で,それだけではないとも思っています.とりわけ時間,空間,様態に関わる副詞が,名詞(句)から発達するということは,歴史的な格変化を念頭におかずとも,通言語的にありふれているように思われるから”
  • #4374. ''No. 1'' を "number one" と読むのは英語における「訓読み」の例である

    前 次 hellog英語史ブログ #4374. No. 1 を "number one" と読むのは英語における「訓読み」の例である[abbreviation][latin][spelling][japanese][kanji][sobokunagimon][grammatology][khelf_hel_intro_2021] 英語の話題を扱うのに,日語的な「訓読み」(や「音読み」)という用語を持ち出すのは奇異な印象を与えるかもしれないが,実は英語にも音訓の区別がある.そのように理解されていないだけで,現象としては普通に存在するのだ.表記のように No. 1 という表記を,英語で "number one" と読み下すのは,れっきとした訓読みの例である. 議論を進める前に,そもそもなぜ "number one" が No. 1 と表記されるのだろうか.多くの人が不思議に思う,この素朴な

  • #4351. 儀礼としての言語行為

    滝浦 (6) が,オーストラリアのアボリジニ社会の原初的な宗教における聖性について,フランスの社会学者 Durkheim の要点を以下のように示している. 【デュルケームの儀礼論】 (i) 「聖なるもの」への態度は,すべて「儀礼 (rites)」において表される.儀礼の形をとることで,人びとのふるまいの社会的意味を共同体全体で共有することができる. (ii) 儀礼の第一の機能は,聖なるものの聖性が汚されることのないように,聖なるものを俗なるものから分離し隔離することである.この場合,儀礼は基的に「?しない」という否定形で規定されるので,「消極的儀礼(仏 rites négatif 〔ママ〕)」と呼ぶことができる. (iii) 聖なるものの聖性が汚されないという前提のもとで,ある特殊な条件が満たされるならば,聖なるものと通じ合うことが許される.この場合,儀礼は「?してよい」という肯定形で規

    ja_bra_af_cu
    ja_bra_af_cu 2021/03/27
    "宗教でいう神などに相当する聖なるものは,言語においては個人の "face" ということになる" faith/face 儀礼/礼儀 守るべきプロトコルがあるという点では同じコミュニケーションの異なるあり方なのかも?
  • #4316. 日本語型 SOV 言語は形態的格標示をもち,英語型 SVO 言語はもたない

    前 次 hellog英語史ブログ #4316. 日語型 SOV 言語は形態的格標示をもち,英語型 SVO 言語はもたない[typology][case][syntax][word_order][morphology][japanese] 標題は,類型論的な傾向として指摘されている.日語などの SO 語順をもつ言語は,何らかの形態的な格標示をもつ可能性が高いという.実際,日語には「が」「を」「の」などの格助詞があり,名詞句に後接することで格が標示される仕組みだ.一方,英語を典型とする SV 語順をもつ言語は,そのような形態的格標示を(顕著には)もたないという.英語にも人称代名詞にはそれなりの格変化はあるし,名詞句にも 's という所有格を標示する手段があるが,全般的にいえば形態的な格標示の仕組みは貧弱といってよい.英語も古くは語順が SV に必ずしも固定されておらず,SO などの語順

  • #4253. 「対照言語学」と「比較言語学」は似て非なる分野

    標記の2つの分野はよく間違えられるが,まったく異なる分野であることを指摘しておきたい.英語では対照言語学は contrastive linguistics と呼ばれ,比較言語学は comparative linguistics と呼ばれる.いずれも2つ以上の言語を比較・対照する言語学の下位分野であるには違いなく,ややこしい名称であることは確かである. 分かりやすさを重視して,ざっくりと区別するならば,対照言語学は系統的に無関係の言語どうし(例えば日語と英語)を比べて,言語現象の異同を明らかにする分野である.基的には共時的な観点に立ち,語学教育,翻訳論,言語普遍性,言語タイポロジーなどと近しい関係にある. 一方,比較言語学は系統的に関係がある言語や方言どうし(例えば英語ドイツ語)を比べて,その歴史的な類縁関係を明らかにしようとする分野である.原則として通時的な視点をもっており,言語変化

    ja_bra_af_cu
    ja_bra_af_cu 2020/12/18
    comparative philology ともいうのね
  • #4243. 英単語の意味変化の辞典 --- ''NTC's Dictionary of Changes in Meanings''

    前 次 hellog英語史ブログ #4243. 英単語の意味変化の辞典 --- NTC's Dictionary of Changes in Meanings[dictionary][lexicology][semantic_change][oed][bibliography][bleaching] あまり知られていないと思われる NTC's Dictionary of Changes in Meanings を紹介します.英単語の意味変化に特化した辞典です.これを手元に置いておくと便利なことが多いです.単語ごとにその意味変化を調べようと思えば,まずは OED に当たるのが普通です.しかし,OED はあまりに情報量が多すぎて,ちょっと調べたい場合には適さないことも多いですね.鶏を割くにいずくんぞ牛刀を用いん,ということになりかねません.そんなときに手近に置いておくと便利な辞典の1つが,こ

  • #4242. ソシュールにとって記号の変化は「ズレ」ではなく「置換」

    ソシュール (Ferdinand de Saussure; 1857--1913) は,言語の共時態 (synchrony) と通時態 (diachrony) を区別したことで知られる (2つの態についてはこちらの記事セットを参照).ソシュールは通時的次元を「諸価値の変動のことであり,それは有意単位の変動ということにほかならない」(丸山,p. 310)と定義している.この「変動」は,フランス語 déplacement (英語の displacement)の訳語だが,むしろ「置換」と理解したほうが分かりやすい.ソシュールは,シニフィエ (signifié) とシニフィアン (signifiant) の結合から成る記号 (signe) の変化は,両者の「ずれ」というよりも,別の記号による「置換」と考えている節があるからだ. 同じ丸山『ソシュール小事典』より déplacement の項 (28

  • #4213. なぜ ''input'' は *''imput'' と綴らないのですか? --- hellog ラジオ版

    前 次 hellog英語史ブログ #4213. なぜ input は *imput と綴らないのですか? --- hellog ラジオ版[hellog-radio][sobokunagimon][hel_education][spelling][pronunciation][prefix][assimilation][morpheme][consonant][latin][etymology] 標題の語 input は,語源的には「接頭辞 in- + 動詞 put」のようにみえるので,一見すると何も問題がないように思われるかもしれません.しかし,impact, imperfect, imperil, impersonal, important などの綴字を思い浮かべてみれば,接頭辞 in- に続く基体が p で始まるものであれば,通常,接頭辞は im- の形を取ることが分かります.そうす

  • #4206. なぜ ''as'' にはあんなに多くの用法があるのですか? --- hellog ラジオ版

    前 次 hellog英語史ブログ #4206. なぜ as にはあんなに多くの用法があるのですか? --- hellog ラジオ版[hellog-radio][sobokunagimon][hel_education][sobokunagimon][preposition][conjunction][adverb][relative_pronoun][polysemy] as という語は,発音も綴字も単純です.短く,高頻度でもあります.しかし,気が遠くなるほど多くの用法があり,品詞としてでみても前置詞,接続詞,副詞,関係代名詞と多彩です.以下に様々な用法の例文をあげておきましょう. ・ They were all dressed as clowns. ・ I respect him as a doctor. ・ You're as tall as your father. ・ As sh

  • #4160. なぜ ''th'' には「ス」の「ズ」の2つの発音があるのですか? --- hellog ラジオ版

    前 次 hellog英語史ブログ #4160. なぜ th には「ス」の「ズ」の2つの発音があるのですか? --- hellog ラジオ版[hellog-radio][sobokunagimon][hel_education][pronunciation][consonant][voice][th][verners_law][stress][assimilation][phonetics] 前回の hellog ラジオ版では「#4156. なぜ英語には s と微妙に異なる th のような発音しにくい音があるのですか? --- hellog ラジオ版」 ([2020-09-12-1]) という素朴な疑問を取り上げました.今回も引き続き th-sound に関する話題です.th の綴字に対応する発音には,清んだ /θ/ と濁った /ð/ の2種類があり得ます(音声学では各々を無声音と有声音と

    ja_bra_af_cu
    ja_bra_af_cu 2020/09/16
    語末の無声子音が語中になると有声化するという歴史ある規則で説明できるイレギュラーがたくさんあるのね