ヘレーン・ハンフ編著『チャリング・クロス街84番地 増補版』(江藤淳訳、中公文庫、2021)が出たので読んだ。 たしか四半世紀ぐらい前に旧版を読んでいるはずだが、細かいところは忘れていたので、新鮮な気持ちで読むことができた。 著者のヘレーン・ハンフはニューヨーク在住の作家。といっても当時はまだ有名な作家ではなく、テレビのシナリオや子ども向けの本を書いて糊口をしのいでいた。 そんな彼女の楽しみは読書なのだが、いつも読むのは英文学やギリシア・ローマの「古典」で、それも小説や物語よりもエッセイや日記を好む。古書が好きで、新刊本には見向きもしない。 しかし彼女の趣味を満たしてくれるような古書店が近くにはない。 そこで彼女は新聞に載っていた広告を頼りに、大西洋を隔てたロンドンの「チャリング・クロス街84番地」の絶版本専門の古書店「マークス社」に欲しい本のリストを送り、本を取り寄せることにした。194
『文学は実学である』(荒川洋治 著)みすず書房 現代詩作家・荒川洋治さんの1992年から2020年に至るまでのエッセイが『文学は実学である』にまとめられた。既刊本から選り抜かれたエッセイに、単行本未収録の8篇が加えられた、佇まいも美しい一冊だ。 「基本的には時系列で並べているのですが、見開きにしたいものもあったので、入れ替えたものもあります。タイトルにもなっている『文学は実学である』もそうですね。文学部を出た人は、歩いていても、わかります。ぼんやりしている。文学部、文科系の人は、いつも、漠然と、人間について考えつづけてきた、というところがあります。つまり、〈人間〉の研究をしているんですね。いまは、これまでの方法では、解決できない問題が多い。社会が壁にぶつかったとき、いざというとき、文科系の人は、人間性にもとづく、いい判断ができ、大切な、必要なはたらきをすることがあります。人間についての総合
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