村田沙耶香(以下、村田) 『大家さんと僕』、読んでいて本当に楽しかったです。ほのぼのさせられるだけじゃなくて、戦争中の疎開経験の話や、昔はホタルがいた川の光景など深く考えさせられたり、なぜか思わず泣いてしまう場面もあって、感情が大きく揺さぶられました。 矢部太郎(以下、矢部) お笑い芸人の僕としては、読者に爆笑してもらおう! というつもりで描いたんですけど、その点ではまったく目的が達成できていません。でも、「クスッときた」とか「ほっこりした」と言ってもらえることもあるので、じゃあもうそっちの路線を狙ったことにしておこうかと(笑)。 村田 大家さんのささやかな言動や心の動きを、ひとつずつ掬い上げる矢部さんの丁寧なまなざしが、この作品をつくり上げているんでしょうね。だって雑な人だったら、年配の方から伊勢丹が好きと聞かされても、「へえ、そうなんだな」と聞き流してしまいそうじゃないですか? 矢部さ