東京都北区のJR王子駅前のビル街にある「王子駅前公園」の一角で二月十九日早朝、ホームレスの男性が倒れていた。病院に救急搬送されたが、死亡。当日の二十三区の最低気温は氷点下二・六度。凍死だった。一カ月がたとうとしているが身元はまだ確認されていない。「珍しいことではない」ともいわれる。それでも確かにその男性だけの、その人だけの人生があった。 (岡村淳司) 「面白い人がいる」と聞いて、記者としてこの男性を訪ねたのは二〇〇九年九月。トイレとベンチしかない公園で、砕いたピーナツを使ってスズメを餌付けし、手に乗せるほど懐かせていた。 話しかけると、不況で仕事をリストラされたことや、生活苦で妻子に逃げられたことを、とつとつと話してくれた。苦労話ばかりなのに「今の暮らしに満足している」と穏やかに笑い、プレゼントしたたばこをうまそうにくゆらせた。 男性は塩原博志と名乗った。当時六十七歳。専門家に尋ねると「ス