12月に文春文庫から刊行される『侠飯(おとこめし)』は、“ヤクザ”が御取り寄せとグルメ(B級ですが)にこだわる、まったく新しい異色グルメ小説。自身も料理がとても好きだという著者の福澤徹三さんに話を聞いた。 子どもの頃は、いまほど豊かな時代ではなかったせいか、あまり美味しいものを食べた記憶はないですね。外食の機会はめったになくて、寿司といえば巻き寿司と稲荷、ステーキやベーコンといえば鯨だと思ってました。当時は肉のなかで鯨がいちばん安かったんです。母が大ざっぱな性格だったので、わが家の料理はかなりアバウトでした。味噌汁はいりこのでかい奴がそのまま入ってて、カレーはジャガイモやニンジンの角がごつごつしてました。 高校2年の頃に両親が離婚してからは、父とぼくはそれぞれ自炊になりました。父の料理は母よりひどくて、チャーハンなんか粘土みたいになってる。ぼくのほうは大藪春彦先生の小説にでてくるダーティな