年末に会社を辞めて早2ヵ月。妻や親族からの冷たい視線は日ごとに強まるばかりである。サラリーマン20年間にコツコツと積み上げた実績は無に帰したのだ。冷たい視線を飛ばしてくるのは、妻や親族にとどまらない。近隣に住む老人。散歩する夫婦。それに同伴する飼い犬。野良猫。梅の花。森羅万象のものが無職の僕を嘲笑っているようだ。当連載の編集担当氏まで【無職編】なる侮辱的なサブタイトルに変更するような冷血な振る舞いをしてくる。実に厳しい時期なのである。 まあ、もともと趣味嗜好がまったく異なる妻とは大小の衝突は日常茶飯事であったのだが、最近はお互いに譲れないものが大きくなりすぎて、さあランチに行こう、映画鑑賞をしようとしても、まとまらず、各々外出する事態が頻発している。数年前。映画館ロビーで意見が割れ、僕は「ゼロ・グラビティ」妻は「永遠のゼロ」をそれぞれ見たこともあった。以来、完全に意見が一致したことはゼロ。